おまけ 風邪
「はぁ」
俺は天井を見て溜息をついた。
林間学校から帰って来た次の日。
振替休日だというのに俺はベッドから動けないでいた。
「げほっ。けほけほ」
気管からせりあがってくる痰がからんで、体を丸める。
そう。
俺は絶賛、風邪を引いているのである。
「さむ...」
布団を頭まで被る。
情けない。
いくら雨の中歩いたとは言え、風邪を引くなんて弱すぎる。かっこ悪い。
はぁ。
体温は測ってないが体感的に、熱があるのは確定だ。
「げほ。げほ」
俺は頭を揺らさないようにそっと横に向きを変えた。
ぼーっとする。
頭も痛い。
―コンコン
部屋の扉がノックされた。
それと同時に心配そうな声が聞こえる。
「若、大丈夫ですか?私、心配なんで残っても...」
ガチャリと扉が開いた。
入ってきたのは族の幹部だった。
「いい。寝てれば治る。お前もさっさと親父のところへ行ってこい。今年は重要な役回りを任されているんだろう?」
俺は声を張り上げない程度に答える。
「ですが、私が家を空ければ、若が屋敷に一人に...」
男は、まだジレて、ウジウジと俺の顔色を窺ってくる。
「大丈夫だと言っているだろう。これは若頭命令だ。行け」
今度は強めに言った。
「.....かしこまりました...。では、早めに帰ってくるように致しますので、それまでは無理をなさらない様にしてください」
「ああ」
ようやく引き下がってくれた。
今日は月に一度の総会の日。
もちろん、俺も参加する予定だった。
組の連中はその総会に出席するため、誰も屋敷に居ないのである。さっきの奴が最後の戸締りを任されていたため、残っている俺を呼びに来た所、床にふせっているのがバレたってとこだ。
別にただの風邪なんだから放っておいてくれれば良いものをなんだかんだ心配してくれる。
ふぅ。
俺は火照ってきた体に溜息をついた。
―ブブッ、ブブッ
今度は枕元のスマホが震えた。
電話だった。
俺は吸い寄せられるように受信ボタンをタップした。
『もしもし!!こーくん?』
少しテンション高めな彼女の声が俺の耳を通り抜けた。
多分、俺はどうしようもないくらい格好つけなんだと思う。
俺は体調不良を悟られぬよう、いつもより声の張りに気を付けて電話口に喋りかけた。
「どうした?」
そう尋ねると甘えた声を出した。
『へへ』
「なんか嬉しそうだな」
俺は彼女の声を聞いてちょっと元気になった。
『あのね、初の冠番組が決定しました!』
「おー。凄いじゃん」
『うん。ラジオとか民法テレビは冠あっったけど、全国向けの番組は初めてだから凄く嬉しいです!』
「良かったな。毎日、頑張ってるもんな」
『そうですね。毎日頑張ているのも、そうですし、こうして声を上げて応援してくれるファンの皆さんが居てこそですね』
そこまで喋って愛莉は少し押し黙った。
どうかしたのだろうか?
『....こーくん、元気ない?』
ぎくり。
「ん?そうか?」
『林間学校の疲れ出ちゃた?』
図星をついてくる。
「いいや、全然。そう言う愛莉さんはどうなんだ?昨日の今日でもう現場入ってるだろ?」
これ以上はまずいと、話題を変える。
『私はすっごい元気ですよ。林間学校楽しかったなぁって思うと力が漲ってくるのです!』
「そうか。それは、よか...っ....た.....」
次にまずいと思った時には遅かった。
「ゲホッ。ゲホゲホ。けほっ」
俺は止めきれなかった咳を連発した。
『こ、こーくん!?大丈夫?!』
あーあ。
せっかく格好良く終わらせるつもりがバレてしまった。
「すまん。むせた」
一応、言い訳。
けど、それは逆効果だった。
『こーくん。私は嘘つきこーくんは嫌いです』
こーくんの事くらい声で全部分かるんだから。
私に嘘を付かないって約束したよ。
それも、嘘だったの?
怖いぐらい問い詰められた。
「.....。ごめん。風邪引いて寝てた....」
俺は観念して白状をしたのだった。
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