第99話 告白
ちゃんと服を着替え、俺は河原さんに誤解だと説明し納得を得た。
そして、解放してもらえると愛莉と2人きりになった。
「こーくん?」
向かいの椅子に座って不思議そうに首をかしげた。
「あのさ...」
俺、実は愛莉にずっと隠していた事がある。
どう切り出そうか迷った。けれど、嘘をつき続け、彼女をだまし続けるのは俺がやりたい事じゃない。だから、素直に話そう。
「俺、親父から卒業したら、親父の決めた許嫁と結婚しろと言われている...」
正直、彼女が今、どんな表情をしているのか確かめたかったが俺に、そんな勇気は無かった。
リビングの座卓の隅に埃が見えた。
「...」
彼女は何も言ってこなかった。
そりゃ、そうだ。
これは、愛莉と結婚できないと言っているようなものだから。
「色々、考えた。最初は親父が勝手に決めた事だし、駆け落ちでもなんでもして逃げ切ろうと思ってた。だけど、俺、やっぱ、伊世早の息子だから。組を守るっていうのが信念に刻まれてるらしい」
「十川って分かるよな?」
同じクラスの。
「千沙ちゃん?」
いきなり彼女の名前が出たのにさらに、不思議そうにして聞き返してきた。
「俺も、今日、ついさっき、知った事なんだが、彼女がその許嫁相手らしい...」
「?!」
息を呑む音がした。
俺も正直驚いたんだ。無理もない。
「そして、偶然にも、彼女には他に好きな男がいるらしい」
大人っぽい相手らしいってことはさすがに言わなかった。
「お互い、思う人は別にいるが、結婚はしておいたほうが社会の安定を図れると言ってきた」
「理由は......」
俺は数時間前に十川に言われた事をそのまま伝える。
「だから、俺たちは契約上の結婚をする...つもりだ...」
一気に捲し上げたから話がまとまってない。俺の頭も収納スペース無くて天手古舞だ。
俺はここまで話すと恐る恐る顔を上げた。
彼女の顔を見る。
彼女は、怒っても、泣いてもいなかった。
「つまり、こーくんは私の事を好きって事で良いんですか?」
凄く嬉しそうでしてやったりみたいな笑顔を見せていた。
「あ、ああ。俺と彼女はあくまで契約上の結婚ってだけ、いずれ、このよどんだ世界が消えたら、親父たちを放り出して駆け落ちでもなんでもする手はずになっている。十川もその気満々だった」
俺は予想外の反応に拍子抜けした気分だった。
「その...怒って、ないのか?」
だって、普通怒るだろ。
これは未来の浮気宣言しているのと同じ事なんだぞ。
けれど、愛莉は安心したように優しく微笑んでいる。
「怒らないですよ。よかった」
「や、よくないだろ」
「だって、それは愛莉の為にって事ですよね?嫌なはずないじゃないですか」
「.............」
「そんなことより、私はこーくんが話しを打ち明けてくれた事がすごく嬉しいです。私、ずっと不安だったんですよ?」
「悪い。自分の家の事だし巻き込むと悪いと思って.............」
「巻き込まれるほうが良いです!」
「そう言うものか?」
「そう言うものです」
「なんか、今日の愛莉、すごい大人っぽく見える.............」
俺が意気地無いだけか。
「へへ。そうですか?
こーくんこそ、今日はなんだか可愛いです」
真っ青だった顔色、良くなりました。
「そんなに酷かったか?」
俺は頬をさわる。
「それはもう、今にも倒れるんじゃないかってくらい真っ青でした」
そんなにか。
でも、愛莉の言う通り少しだけ心の要領が増えた気がした。
「じゃ、林間学校の最後のイベント行くか.............」
雨が上がり、晴れ間が覗く窓の外を見て、俺たちは椅子から立ち上がった。
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