第98話 お風呂湧いたよ?

「こーくん。お風呂湧いたよ?」

ひょこっと俺達の部屋を覗いてきた。

「悪い。ありがとう」

「脱がしてあげよっか?.....」

ぶっ!

「いい。自分で出来る」

「んー。いいじゃないですかぁ」

なんでさっきからそんなに引っ付いてこようとするんだ。

一応服は着替えたがまだ濡れていると言えば濡れているんだからあっちに行ってなさい。

「やだよ。こーくんの体、すっごい冷たいんだもん」

私が直に温めてあげましょう!

「こらこら。風呂行ってくるから大人しく待ってろ」

「むぅ」

そんな顔をするな。

上がったら構ってやる。話したい事もあるしな。

体は冷えているはずなのに、顔が物凄く熱く感じた。

「.....分かりました。早く入ってきて下さい!」

愛莉はまだ頬を膨らませていたが脱衣場への道を開けてくれた。



■■■■■■


―カポーン

はぁ。

俺は熱いお湯に肩まで浸かりながら息を吐いた。

暖かくて体が温まる。

冷えた体に丁度いい。




―コンコン

風呂場の扉がノックされた。すりガラスの向こうに愛莉の姿が映る。


「どした?」

俺は尋ねる。

「こーくん」

扉の向こうのシルエットが小さくしゃがんだ。

どうやら俺が上がるまであそこに陣取るみたいだ。

「寂しかったですよ....」

ぽつりと呟いた。

「寂しかったって.....山道で別れてからそんな時間経ってないだろ?」

俺は久し振りの彼女のネガティブな発言に戸惑った。


「こーくんがどこかに行っちゃうんじゃないかって凄く不安でした」

いつもよりワントーン低い元気のない声。

「どこも行かないぞ。安心してくれ」


「噓だ.....」

「.....嘘じゃない。嘘じゃない」


「最近のこーくん愛莉に嘘いっぱいついてるもん....」

ギクリ。

「ど、どのへんが?」


愛莉は俺のたじろぎに返答せず、話を続ける。

「.....。それに、こーくん、林間学校始まってずっと体調悪いの隠してたでしょ?」

うっ。

バレてたのか。気づかれてないと思ったんだが.....。

「私が大丈夫?って聞いても本当の事隠して私に大丈夫って言ってくるの、ちょっと、悲しかった」

すまん。

本当に大した事ないんだ。

少し、寝不足なだけで.....。


「そのこーくんが言う寝不足、何が原因なのかいつもはぐらかしてくるもん。たまにお父さんと電話してるよね。凄い怒鳴り合っている時もあるもん。お見合いがどうのとか聞こえた時もあったよ。でも、私はこーくんが話してくれるのをずっと待ってた。GWの時も電話着信見たけど、何も触れなかったんだよ?でも、、多分、私が言わないとこーくんは一生、自分で背負っていく気がする。私、出会った頃よりも成長したよ?ちゃんと、自分で考えて行動出来るようになったよ。私じゃ相談相手にならないかな?私もこーくんが何に悩んでるのか知りたいよぉ。こーくんが弱音を吐く相手が私であって欲しいよぉ」

扉越しに段々声が不安定になっていく。

「こーくん、私、こーくんの事がどうしようもなく好きなんだよぉ」

ふぇ。ふぇーん。




困った。

扉の向こうで泣き始めた。

俺はいてもたっても居られず、頭に置いていたタオルで腰を巻いて脱衣場の扉を開けた。




好きな女を泣かすって言うのは男の恥だ。

「愛莉」

気づけば俺は愛莉に抱きついていた。

「すまない。そんなに不安にさせていたとは思わなかった。俺独りで抱えていれば済む問題だと思っていた」

「こーくんのバカ」

「うん。ごめん。ちゃんと話す。や、愛莉とこれからの事、ちゃんと話したい。」

俺は彼女の背中に手を回し抱きしめる。





「ちゃんと愛莉を頼ってくれる?」

「ああ。2人で話し合って決めたい事が沢山ある」





「じゃ、まずは伊世早君、服を着てください」

まったく。少しは2人きりにしようと思っていたのに、そんなに積極的だと私が先生に怒られそうです。一応、ここは公共施設なので、健全な付き合い方が求められるんです。

その声で振り向くと、いつの間に帰ってきたのか河原さんと虎雅が脱衣場の前に立っていた。




おわっ!!

「や、これには訳が.....」

俺は慌てて愛莉から離れた。

「分かりましたから。早く服を着てください!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る