第97話 下山

「雨、止んだみたいだな」

俺は山小屋から顔を出し、空を仰いだ。

まだ、黒い雲は残ってはいるが霧が降りてきている。

もうすぐ雨が上がる証拠だ。


「行けそうか?」

俺は椅子に座ったままの十川を振り返る。

「ええ。私は大丈夫だけれど............。貴方、なんだか、顔色、悪くない?」

十川が俺の顔を窺ってきた。

「そうか?色々、重大な話しがあって頭が混乱してるのかもな」

俺は大分乾いてきた髪をかきあげて彼女の前にしゃがんだ。



「そう。なら良いけど.....」

「ああ。俺は大丈夫だ」

「じゃ、ごめんなさい。失礼するわ」

俺は再び十川を背中に乗せ山道を下っていった。



■■■■■



「見えてきたな」

俺は下に見えるコテージを眺めた。

「ええ。最後まで付き合わせてしまって悪かったわ」

「けど、貴重な意見交換が出来た」

「そうね。それと、その辺は彼女さんに誤解のないよう説明しておいてよね。今後、私達2人で行動している事で仲違いするなんてみっともないもの....」

十川が俺達の関係を心配する。

「お前の方はどうなんだよ」

「私の所は大丈夫よ。寛大な人だし、大人っぽいもの」


大人なのか?


「さあ?」

ったく。じらすのが上手いな。




ふふふ。

ありがとう。



いえいえ。どーいたしまして。




これ、俺達、一生仲良く出来ないな笑

あら。そう?

こう言う関係も悪くないんじゃない?




はは。


■■■■■




山を下りると、虎雅、河原さん、愛莉、九重先生が待っていた。


「十川さん!伊世早君!!」

愛莉が駆け寄ってくる。


「伊世早。ご苦労さん。男前だな」

女独り背負って山を下りるってのは良い度胸だ。

九重先生が感心した様に顎をさすった。

「んじゃ、ここからは教師おれたちの仕事だ」

そう言って先生は十川を軽々と持ち上げ、真顔でお姫様抱っこをする。


「な!?ちょ、離しなさいよね!こんな体制恥ずかしいわ!!」

十川がバタバタと暴れる。

「うるさい。お前がドジ踏んだんだろ。怪我人は大人しく俺の中に収まっとけ」

ニヤリと笑った先生を見て、十川が真っ赤に顔を染め、先生の胸の中でくたっとしていた。


「んじゃ、お前らもさっさとコテージ戻れよ。雨で濡れて風邪でも引かれたらたまったもんじゃない。明日には帰るから、せめてそれまでは健康で居てくれ」

辛辣な言葉を吐き捨てると、九重先生は十川を抱えて歩き去っていった。





.....。まさか....な。







「良かった。こーくんが無事で」


「おわっ。離れろ。びちょびちょになんぞ!?」

俺は抱きつく愛莉から離れようとする。



「ダメ!心配させたんだから」

困ったように口を尖らせてくる。

「.....。じゃ、せめて人目は気にしようか」

俺はさっきからニヨニヨと見てくる虎雅の目が、鬱陶しくてポリポリと頬をかいた。





■■■■■


「まずはお風呂で体を温めなきゃね」

コテージに着くと愛莉がパタパタと風呂場へ飛んで行った。


■■■■■

ったく。妙な気を回しやがって…。

俺は今居ない虎雅たちに溜息をついた。

『じゃ、俺らは次のレクリエーションあるからここでな』

『2人が居ない事はちゃんと、事情を誤解を与えない程度に伝えておきますのでご安心を』

『2人でゆっくりくつろげよな!』

そう言って消えていった2人に俺は溜息をついた。




「こーくん。お風呂、湧いたよ」

愛莉がそう言って戻ってきた。

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