第7話 約束の日は8日の夜から...

 4月8日土曜日。

 バドミントン部は1日練だった。

 1日練とは朝8時から夜7時まで。

 そこそこハードなスケジュールで練習をみっちりこなす。



 ■■■■■

 バドミントンは中学で始めた。

 ちょうど思春期真っ只中だった俺は自分の家柄にうんざりしていた。

 ただ、そのせいか普通の人とは違うグレ方を極めた。




 普通、思春期の男子はグレる。

 誰がなんと言おうと必ず通ってくる道。


 普通の男子学生と言えば、

 未成年者飲酒禁止法、未成年者喫煙禁止法など未成年がする事が禁止されている事に手を出したり、学校をサボりがちになり不登校になる事で未知の世界に足を踏み入れる。

 そのエクスタシーに酔い不安定な時期の情緒を保とうとする。

 ただ、俺は違った。

 何故なら普通の学生グレる為にする事が俺の家では日常であり、常識であった。

「学校?ああ。別に行かなくても良いぜ。俺なんか中退したしな」

「パチンコ俺、15で始めた」

「俺は10歳でタバコ始めて20歳で辞めた。気にすんな」

 こんな頭の可笑しい連中しかいない中で俺が普通にグレても彼らは何とも思わない。

 むしろ喜んで俺のグレを受け入れる気がする。


 それが嫌で俺は、俺のグレるは普通の男子学生を極めるって事に落ち着いた。

 その効果は敵面で.....。


「若!またテストで学年2位になったんですか?」

「ああ。そうだけど?」

 何か?

「部活動も始められたとか......」

「ああ。バドミントンをやる事にした」

「あ、あんな、小さな箱の中を走り回る惨めな愚競技を伊世早組の次期頭首である若様がおやりになるなんて........」

「ぐぁぁぁぁ!!若が、若がどんどん好青年になっていく」

 なんて事だ!と頭を抱えていた親父の組の仲間を見て心底気持ちが良かっった。




 そんなこんなで始めたバドミントン。

 今はそこそこ強くなってる。


 ■■■■■

 1日練。

 いつもは疲労から動きが鈍くなる午後の後半でも今日は体が軽く余裕だった。






 明日が急遽休みになった彼女。

 今日は彼女の家に行く日である。

 電話やメールで毎日連絡は取り合ってはいたが、会うのは、1年の終業式ぶりである。

 興奮していないと言えば嘘になる。




 俺は体育館のモップをけが終わると急ぎ足で部室へ向かった。

「康介ー!鍵、返しに付いてきてくれるよな?」


 試合形式練習で1番負けた人が職員室へ部室の鍵を返しに行くという部のルール。

 幼馴染みであり同じバドミントン部に所属している虎雅が意気揚々と近付いてきた。

 どうやら俺も道連れにしたいらしい。

「今日はもう帰る」

 俺は虎雅に言った。


「え?」

 虎雅は当てが外れたように驚いていた。


「いっつも一緒に帰ってるじゃん?頼む!」

 拝むような目で見てくる虎雅を今日は冷たくあしらう。

 俺は、バドミントンシューズをロッカーへ片付けラケットをケースに仕舞うと、ケースと通学鞄を肩にかけ立ち上がった。

「悪い。今日は用事あんだ」



「ったく。康介、たまにそう言う日あるよな」

 独りでこそこそ電話するし、突然消えるし。

 俺と井勢谷あいつの関係を知らない虎雅には俺の時偶の行動が不自然に、そう見えるらしい。



 まぁ、本当の事は言えないけど。

「じゃ、お先」

 俺は浮かれた気分を顔に出さないようにポーカーフェイスを気取り、虎雅を置き去りに部室を出た。

 これからの事が楽しみすぎて足が浮かれているのは気のせいだ。

 たぶん。





 自転車を飛ばし、1度屋敷へ戻る。

 人の家行くのに汗だくはやだろ?

 シャワー浴びたいし、まとめた荷物も持っていきたいしな。





 軽くシャワーを浴び、白Tシャツに黒のジーンズというラフな格好で駅へ向かった。

 仕事帰りのサラリーマンで少し混んでいる改札を抜けプラットホームを昇り、タイミングよく滑り込んできた電車に乗り込む。

 1駅分だからすぐ着く。

 その間に連絡っと.............。



 "お疲れ。今、電車。"

 "あと10分くらいで着く.............。"

 打っている途中で既読がついた。

 "お疲れ様です!"

 "お家で待ってるよ~!"

 "(楽しみ!)"

 "(わーい!)"

 "(まだかなぁ~?)"

 ゆるキャラなスタンプが爆速で3連発やってきた。



 ふっ。

 こう言うところ可愛いなって思う。

 多分、面と向かってだとこんな甘えた表現しない。

 その点、スマホとかだと顔が見えない分本心が出やすいのか普段より饒舌になる。



 そんないつもより数倍甘い文章パンケーキにスタンプという名のシロップが大量に投入される彼女の文面、俺は好きだ。


 まぁ、結局、全部可愛いんだけど。

 俺は電車に乗っている事を忘れて、ついニヤリと笑ってしまった。



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