第6話 9日の約束
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俺は話を戻すことにした。
「司会、頑張ってたな」
そう言うと彼女は嬉しそうに言った。
『うん。一緒に司会してた『ほわいと♡』の大和さんがいっぱいフォローしてくれて.......ほんと、すっごく助かった』
「そっか。その高島って人と前、ドラマで共演したんだっけ?」
さん付けだとしても、下の名前で呼んで親しみを持っているらしい。
だから聞いた。
『うん。学園ドラマ。主演が『ほわいと♡』のメンバー3人。私は彼らの部活のマネジャー役だった。みんなすっごく優しくて、あれでドラマ初めてって反則だよぉ~』
『昨日もね、大和さん以外のメンバーも楽屋に挨拶に来てくれて、頑張れって応援してくれたんです』
「そか」
俺は俺以外の男の話を楽しそうにしている彼女にそれしか言えなかった。
別に嫉妬とかじゃない。
多分。
俺、そんな面倒臭い男になりたくない。
その男、愛莉に会えてずるいな。
下手に口を開くと彼女に会いたい欲がどうにも溢れ出しそうで.......。
けど、気づけばぽろっと本音が零れていた。
「........。春休み、3月の終業式からお前に1回も会えてないな........」
自分の中で禁句にしていたはずの言葉がスルリと抜け落ちていった。
愛莉とはかれこれ1か月会えていない。
それは彼女が忙しい身だから。
それは俺たちが世間に認められた
本音を言えば、毎日でも会いたい。
1日1分だけでもリアルで会話をしたい。
キスとか抱き合うとかはまだしたことないけど、手をつないでデートだってしたい。
バカップルを横目で見て蔑むのは俺が出来ないから。
嫉妬しているだけだ。
彼女は本当に多忙な人だ。
学業と芸能の両立を図っているため、春休みや夏休み、長期休暇はまとまった時間が取れる分、学校のある日より仕事が多い。
ドラマ、舞台挨拶、来年のミュージカルの舞台稽古、ダンスレッスン。
あんな細い体でいくつもの仕事をやりくりしている。
すごい。
尊敬するよ。
ただ、その分自分の時間、彼女の時間は削られる対象となる。
俺は彼女と付き合うときに、彼女の仕事のことに関しては一切口を出さないと誓った。
どんなに仕事で会えない時も俺は彼女を心で支えると決めた。
それなのだが、遠回しに愛莉に会いたいと言ってしまった。
恥ずかしい。
「ごめん」
俺が誤るより先に彼女が言った。
『ごめんね。私のせいでこーくんに寂しい思いをさせてる』
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『ごめん。私のせいでこーくんに悲しい思いさせてる』
「いや、いい。自分の夢に向かって一生懸命な愛莉、好きだから」
『ふふ。こーくんが好きって言ってくれた......。ふへへへ』
俺がそう言うとショボンとしていた彼女の声ははにかんだような嬉しそうな声に変わっていた。
『そーだ。そー言えば....春休みって、4月9日まででしたよね?』
いきなりそんな話しを持ち出される。
「ああ。そーだけど?」
それがどうした?
『4月9日。その日、オフ。休みになったんです』
映画の撮影、スムーズにいって9日が予備日だったんだけどいらなくなったんですよ。
嬉しそうに教えてくれた。
『だから9日、1日休みです。
8日も19時には帰れると思いますので、私の家、来ませんか?』
ふんふん!と目に見えない尻尾をふゆふゆと揺らし、勢いのままに、彼女は急な提案をしてきた。
「あー」
俺は壁に掛けたカレンダーで予定を確認する。
『無理そうですか?』
心配そうな声が返ってきた。
「や。8日は部活、1日練だけどそれ終わったら飛んで帰る。7時半くらいになるけど良いか?」
俺が無理じゃないと伝えると電話口で飛び跳ねるような音がした。
『やった。じゃ、ご飯作って待ってます』
「別に無理しなくていい。忙しいんだから。飯なら俺が適当に買って帰るし......」
俺は、気を遣ったつもりだったが余計なお世話だったらしい。
『ダメ。私がこーくんに何か作りたいんです。いつも頼りっきりはよくありません!』
ご機嫌を削いでしまった。
いつもお世話になります。
俺は感謝を伝えるようにゆっくりと、彼女に言った。
「分かった。楽しみにして帰る」
9日か。
待ち遠しいな。
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