第5話 ふ、風呂? マジか....。
『ん。お風呂ですよ?』
風呂場特有のハウリング。
これは正しく彼女が風呂に入っている証拠だった。
体が固まる。思わずスマホを落とした。
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風呂......、風呂ねぇ。
うん。
俺はこれ以上考えないでおこう。
俺は床に落ちたスマホを眺める。
『こーくん?』
『おーい』
『ねぇねぇ』
彼女は何も気にしていないのか応答しなくなった俺に呼び掛けている。
はぁ。
今できる精一杯の自制を働かせる事にし、俺はそっとスマホを拾うと耳に近づけた。
「悪い。スマホ落っことしてた」
『ふふふ。こーくん意外とドジですねぇ』
笑われてしまった。
こうなったもの全て君のせいだからな......と言ってやりたい。
そんな俺の謎の苦労を一ミリも知らないお姫様は、
『愛莉、今日はお風呂からお届けします。えへ、なんちゃって......』
ラジオ風だよ?
と能天気に楽しそうに今を楽しんでいらしゃいます。
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なぁ。分るよな?
この気持ち。
さっきからBGMのようにチャプチャプと水分子がぶつかり合う音。
それが、何の音なのか、何に何が当たっている音なのか深く言及はしないが、察してくれ。
すぅはぁ。
リラックスしきった気持ちよさそうな呼吸音。
風呂場と言う音響効果も合間って、ありえないくらい全ての音を吸収している。
ASMR配信並だ。
彼女は髪が長いから、もしかしたら髪をタオルでターバンのように巻いているのかもしれない。
いや、さっき風呂入ってシャワー浴びたばっかだから髪はまだ洗ってないのか?
熱気で潤いが増した彼女の肌。
そのスベスベな体に腕でお湯をかける。
風呂×美女
この設定なら永遠に妄想劇を繰り広げられる。
やべぇ。
まじ、これは考えずにはいられない。
はぁ。
「はぁ」
マイクが俺の心の声を拾ってしまったようだ。
『こーくんお疲れ?』
ため息を疲れからだと思っている彼女が俺の体調を心配してくれる。
「や、全然」
疲れてない。むしろ、アドレナリン全開で体バッチバチ、脳味噌フル回転。
『そうなの?』
謎の語彙力には何も突っ込まれずスルーされた。
『でも、今日も部活だったんでしょ?』
「まぁな。1日練。
でも、試合が近いって訳でもないし、わりと緩め。虎雅が独りで吠えてうるさいだけ」
『ふふ。新城君、いつも明るくて元気ですよね?』
「あれはただのバカだ」
どうしようもない馬鹿者。
この前だって期末テスト直前に俺んちに押しかけてきて勉強教える羽目になったし。
『本当、こーくんと新城君仲良し。ちょっと妬いちゃうよ』
むぅー。っと唸るような......困ったような声を出した。
あんな馬鹿虎にやきもちを焼くお前に俺は嫉妬してしまいそうだわ。
そう心の中で突っ込むことにした。
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彼女の名前は
俺と同じ高校の同級生......と言う肩書だけではない。
3歳の頃から子役アカデミーに所属し、演技の才能を認められ初めて出演した連続テレビドラマで大注目。
飛ぶ鳥落とす勢いで大ブレイクしたのにも拘らず、その人気は数年経った今でも衰える事を知らない。
女優の人気寿命は5年であると、いったい誰が言ったんだというぐらい。
モデル、女優、最近は、アニメのヒロインを声優顔負けの声で演じ分けたり、そのアニメの主題歌を歌い歌手としても活躍中である。
マルチに活躍しているというか.......いや、マルチすぎだろ。
先月、古巣の子役事務所から大手芸能事務所『
初めて彼女と出会ったのは中1の時。
もちろん、テレビで井勢谷愛莉を俺は何度も見たことがあったし、バラエティー番組の特集とかで一方的に彼女のことは芸能人に疎い俺でもそこそこは知っていた。
ただ、リアルで対面したのが中学1年の冬って話。
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