第3話 電話越しの.....。
ブブ。ブブッ。
1時間半の歌番組が終わった15分後。
ボーッとしばらく余韻に浸っていると机の上に置いていたスマホが鳴った。
電話だ。
誰からかは開かなくても分かる。
通話ボタンを押し、スマホを耳に近づけた。
■■■■■
■■■■■
『も、もしもし....?』
電話の相手は恐る恐ると言った声色で確認してきた。
このまま、無言を貫くドッキリで彼女がどんな風になるのか気にならないでもないが、今日のところはお預けだ。
「もしもし。お疲れ様」
俺は早々に口を開いた。
『えへへ。こーくん、テレビ....観ましたか?』
恥ずかしそうに聞いてくる。息遣いが少し甘い。とろんとした語尾。優しい雰囲気。さっきまでテレビ越しに聞いていた声と、電話の携帯マイクだと拾う周波数が少し違うのか、全ての音を包み隠さず拾っている感じがした。
俺は何も言わず肯定する。
『観ちゃったんですね?』
「ああ。ずっと観てた」
可愛かったと言うのは内緒だ。
『うー。観てほしいような、観られて恥ずかしいような.....』
電話口で顔を真っ赤にしてジタバタしている彼女の顔が容易に想像出来た。間近で見られなくて残念だ。
「それより、今、電話してきて大丈夫なのか?」
俺は電話の後ろがザワザワしている事が気になった。
もしかしたら仕事の途中かもしれない。
抜け出してきたとは考えにくいが、それなら俺は身を引かなくては....。
そう思って確認する。
『大丈夫です。まだスタッフさん達はバタバタしていますが私はもう帰るだけです』
事務連絡中のような抑揚の無い声。
彼女の言葉遣い、トーンがいつもと違う気がした。
ん?
少し違和感を感じるぐらいだから、気の所為と言われればそれまでなのだが....。
そんな俺の心を読んだかのように、彼女は小声で早口に言った。
『へへ。
今、大部屋の前の廊下にいるんですけど、周りにいろんな人が居ますので。
いかにもマネージャーさんと電話してますって感じを出してるのです。
今日も頑張ったから終わったらすぐ声聞きたかったんですよ』
「あー、ね。なるほど」
納得。
『帰ったらもう1回電話したいです。いいですか?』
彼女は俺に確認する。
「ああ。いつでも待ってる」
俺は暇人だからな。
そう言うと、少しテンションが上がった。
『やった!.............です!』
飛び跳ねそうになって慌てて地面に踏み留まる様子が目に浮かぶ。
おい。忘れてただろ。電話口で喋ってるのはマネージャーって事になってるんじゃなかったっけか?
『き、気のせいですよ?』
そう突っ込むと彼女は否定した。少ししどろもどろだ。
ふっ。
「まぁいい。じゃ、一旦切るぞ?」
後でゆっくり話そう。いいか?
『はい』
やはり帰るだけと言っても忙しいのだろう。
彼女は俺の提案に素直に頷いた。
『また後でかけ直します』
「ああ」
頑張っておいで。
うん。ばいばい。
名残惜しそうにお互い通話を終了させた。
俺は多分、そのうち、かかってくるであろう電話の着信を気にしながら、残りの春休み課題を終わらせようと数学のワークを机の上に広げた。
■■■■■
■■■■■
ピロン。ピロン。
1時間くらいして再びスマホが鳴った。
電話かと思ったら律儀に通話アプリで文章が現れた。
"こーくん。ただいま帰りました(ビシッ)"
"今から電話大丈夫ですか?"
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