第2話 それは、テレビの向こう側に
■■■■■
■■■■■
公園前の坂を少し登った場所、この街を一望出来る丘の上。
そこに俺の家はある。
大正時代からの趣のあるデカい屋敷は、The日本と言う風体の白壁黒瓦。
裏口として使われる薬医門。
門柱の後ろに控柱が2本設けられた門を自分で開けた。
「若、お帰りなさいませ」
人目につかないよう、わざわざ帰宅時間を遅くしギリギリまで粘って裏門を開けたのに数人の黒ずくめの男たちが俺を見つけ頭を下げてくる。
「お帰りなさいませ」
頬に傷、グラサンそれはもう色々な人がいる。
悪い奴らではないがガラが悪いのは認める。
あれだけ俺に気を遣うなと言っておいたのに義理堅い奴らが多い。
仕方ない。
別に無視して素通りし、後々関係をこじらせるほどでもない。
ここは大人の対応。
「ただいま」
俺は彼らに一言告げると庭を突っ切って本家の屋敷へ向かう。
玄関を開けると今から外出する人と鉢合わせした。
「おう。今日も遅かったのう。部活忙しいんじゃのぅ」
の着物に羽織姿の伊世早組5代目頭主は俺の背中にかけたバドミントンラケットが入ったバッグを見て唸っていた。
今日は体育館使えない日でロードワークだけだった。
だから随分早く終わっていた.............。
と言うことは口にせず父親に尋ねる。
「親父はこれから遊びに行くのか?」
「なに。ちょいとな」
親父.............。
70歳の良い年した大人のウィンクは思うとこあるぞ.............。
そう突っ込みたかったが止めておいた。
きっと夜勤で朝まで働く母親に自作の夜食弁当を届けに行くのだろう。
父と母の歳のさが30もあるのにも関わらず、まだピチピチ青春、ホヤホヤ新婚のような気分、オーラを纏った両親。
実の親ながら脱帽である。
父は5代目、伊世早組現頭主、
母は一般人。
都内の大学病院で内科医をやっている。
専門は血液内科らしい。
そんな大分珍しい家系に産まれてしまったのが俺、
組長の息子だと言うと大抵は寄り付かない。
それでも俺は今を幸せに生きている方だと思う。
俺は、夕飯は?と尋ねてきたお手伝いさんに「食べてきたからいらない」と伝え自室へ戻った。
元々畳だった和室を無理やりフローリングにした8畳ほどの部屋。
ベッドと机、テレビにクローゼット。
必要最低限の家具だけを揃えたシンプルベースの普通の男部屋。
変わっているとこと言えば部屋の壁半分を覆い囲っている本棚に詰まった大量の本ぐらいだ。
スクール鞄を定位置におろし、部屋着に着替えながら制服のポケットからスマホを取り出し開いた。
夜用のリラックスビューの淡い灯りを放つスマホの画面が写る。
-19時57分。通知1件。
-マリさんがスタンプを送信しました。
俺は迷わずタップした。
セミロングヘアの女の子のミニゆるキャラスタンプが『頑張ってくる!』と拳を斜め上に突き上げてぴょんと跳んでいた。
ふっ。
スタンプが送り主のイメージと同じ雰囲気すぎて気付けば口元が緩んでいた。
20時になるし、もう既読は付かないな.............。
そう知りながらも、『がんば』と返事を返した。
20時。
部屋にある19インチの小型液晶テレビの電源を入れた。
勉強用の丸机とベッドの間に座り、ベッドに背を預けテレビの真正面を陣取る。
CM数本我慢すると、やっと番組が始まった。
『さぁ!!今月もやって来ました!歌で人を笑顔にする歌コン!!!本日も数多くのアーティストさんと盛り上がってまいります!本日は東都総合アリーナの大ホールから生放送でお届け致しまーーす!!』
私、総合司会を務めます。
テレビアナウンサーの
スーツ姿に似合わないハイテンションなオープニングから番組が始まった。
オープニング曲が終わり、司会者へアングルが切り替わると、先ほどのアナウンサーの横に2人の男女が現れた。
『今日、司会を担当します。男子アイドルグループ『ほわいと♡』のリーダー、
よろしくお願いします。
髪の毛をワンポイント
黄色い声が耳を
この反応だけでも彼の人気度は説明するまでもないだろう。
『同じく、司会を務めます。女優の
ピンクの大人っぽいフレアスカートに黒のレーストップス。
ドレッシーな服装が彼女のセミロングヘアをより一層際立てている。
井勢谷愛莉は両手でマイクを大切そうに握りしめ、カメラの前に現れた。
『井勢谷さんは歌コンの司会、今回が初めてということで緊張されていますか?』
アナウンサーの松本さんがセミロングヘアの彼女に尋ねる。
『そうですね。楽屋でも緊張していたんですけど、今はもっと、すっごく緊張してマイクを持つ手がガチガチです。でも、皆さんに元気をお届け出来るよう頑張っていこうと思います‼』
不覚にも、その瞳はカメラの真正面を捉えていて、画面越しに観ている俺はまるで彼女と目が合ったのではと少しドキッとしてしまった。
がんば。
『それでは、本日最初に歌ってくれるのはこのグループ!超人気、二人組男性アイドル『Cerry`s』です!』
俺は遠すぎて傍で背中を支えてやれない彼女の姿をテレビの電波に乗せ心の中で応援する。
別にこれ、イタイ人じゃないからな。
■■■■■
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます