悪魔と寵愛

悪魔は降り注ぐ無数の光の槍をよけている。

「そこダ。」

「戦盾イージス!」

触手攻撃を末無が光の壁で守る。

「無駄だ。ここで時間を稼がせてもらう。」

「ほう、ならこれなら?どうするどうする」

悪魔は触手で倒れていた二人を持ち上げた。

「2人を壁に助かるか…。」

「お前にはもはや撃てまい。」

「調子に乗るな!」

光の槍を手に持った未無の腕を末無が掴み制止した。

「姉さん…」

「だめ、いくら私たちが傷ついても犠牲を出しては…」

「甘イな。」

「きゃっ!」

悪魔は触手で末無の足を掴み持ち上げた。

「姉さん!」

「未無…だめ!怒りは、」

「聖女よ。惜しいな。自己犠牲は最大の苦しみだ。お前の命を犠牲に大切な人を護ったとして、その者は救われない。むしろ、より苦しむだけだ。お前の存在が消え空虚感に耐えがたく、そしてお前の命で救われた罪悪感やプレッシャーに押しつぶされる。そしていつかは自ら命を絶つ。真に無意味で苦しみを増すばかり。」

「…それは…」

「あるのは希望だけだ。全ての苦しみを絶つなど不要。真の希望なら貴様は死してはならん。」

「あなた…もしかして…」

「…」

「もとより貴様らに興味などない。ここまでは単なる余興だ。近いか…、真の希望が。聖女よ、貴様は希望を掲げるには無知だ。だが、ヤツは絶望を知り、底から這いあがった。苦しみを知るものは、希望を掲げるにふさわしい。アレに対抗する希望はヤツしかいない。」

ガチャ、とドアが開き中から現れたのは末離だった。

「貴方は…なんで…お姉ちゃんたちを…」

「貴様の力を引き出すためだ。」

「違うでしょ。」

「…ふっ、フハハはハは」

「あなたの本当の目的は何?」

「そうだな。我に貴様の全力を見せてみろ。それによって決めてやろう。」

「手加減はしないよ。」

末離は獣の手で自身ののどを掻っ切った。

「がっ…ぐ、グルルルル…」

末離は四つん這いになり。目つきや雰囲気が明らかに獲物を威嚇する獣だった。

「もはや理性も己が中の獣に預けたか。」

「グゥゥゥ…ガァ」

「もはや言葉すらも話せぬか。ならば来い。」

末離は悪魔に飛びついたが、悪魔は容易にかわした。

「狩猟本能のみになった獣の攻撃など避けるにたやすい。」

もう一度末離は悪魔に飛びついた。その時、末離は体を回転させ、避けの態勢を取った悪魔に攻撃を当てた。

「なに…!」

「これは野性的な本能じゃない、大切な“今”を守りたい私の意志!」

「は、 はははハはは…上出来ダ。」

「どういうこと?くっ…」

末離はその場でうなだれるように倒れこんだ。

「力が抜けて…」

「当然ダ。我の存在が貴様にはもうない。この空間の負荷に今までは耐えてきたようだがもう終わりだ。」

末離を末無が支える。

「やはりな。」

未無はすべてを察した。

「おかしいと思っていたんだ。この空間では虚無の力に対する耐性や条件がそろっていなければ消えてしまう。末離は条件を満たしていなかったが、それでも耐えられていた。」

「そうダ。我は元々初代虚無の女神の悪意だ。兄に会うため清楚な自分でいたいと無意識の内に生み出された存在。ダからこそ、その適正のない存在でこの世界にイられた。」

「うぅ………」

うなだれる末離の姿を眺めることしかできなかった。

「終わりダ。何モかも。」

末離は意識を失ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る