贖罪と暴食


末離は椅子に座っていた。大きなクロスのかかったテーブルに大きな皿が置かれている。そして、皿の上には自分が横たわっていた。食欲が抑えきれない。この感覚は昔感じたものと同じだ。あの時から、すべてを失い変わった時から感じたことはなかった。

私は自分を食べた。手足それに胴体、顔まで残さず食べた。

「抗わないの?」

「もう抗わない。」

「昔はあれだけ嫌がってたのに。」

「大切なものを護るためなら怖くない。」

「ふふふ、あはははは。ずいぶん変わったじゃない。」

「私はもう強欲でいいの。欲は本能。本能的に動くのが生物ってものでしょ。」

「言うようになったじゃない。ああ、あなたは今の状況を知らない。今私がどうなっているかを。」

「どうなってるの?」

「悪魔の力を奪われた。そして、アレは奪った者すら無視してあなたを食べ返しに来る。」

「…。」

「もはや時間はないよ。」

「どうすればいいの?」

「私に代ワレ」

「いいよ、あなたがお姉ちゃんたちを傷つけないのなら。」

「ナゼ?」

「私は贖罪する。何の力に飲まれても生き続ける。それが約束だから。」

「違ウ。なぜ自分を食べても意識がある?」

「さっきも言ったでしょ。私にもう簡単に生きることは許されない。たくさん傷つけてたくさん食べてきたから。本能に従って生きるしかないんだよ。どんな罪に堕ちても、私は護るものを護る。」

「気ニ入った。イヤ、気に入っていたトモ。悪魔を喰ったときから、お前のことを気に入っていた。杞憂だったとも、私の覚悟は。」

「なら力を貸してくれる?」

「ああ、世界を喰ってもつまらない。満たされぬ食欲は孤独だ。すべて食べても満たされぬ。供給まで我慢も時には必要とな。」

「分かる、ね。私もそうなってた。」

「でも私は孤独じゃない。食する仲間がいる。」

何処かから大きな犬が現れた。ヘルちゃんだ。

「クゥン…」

ヘルちゃんは私を舐めまわした。これは私の血を舐めていた時、私へ最大の愛情表現だ。

「っはは。そうだね、私は一人じゃない。あなたもね。」

「…」

「あなたは私の欲望なんでしょ。最初からあなたは私だった。あの時、アイン君を食べようと考えてないわけじゃなかった。それが信じられなくて私はあなたを作り出した。」

「ふふふ、気づいてたんだ。」

「そうだよ。未離ちゃんと戦ったときの私はあなたみたいだった。あなたが私を乗っ取れるはずがないのに。」

「ならわかるでしょ。あなたのやらないといけないこと。」

「うん、あの悪魔はきっと私の右腕を持ってる。多分それがアレを象っているんだと思う。」

「それとも悪魔を愛するの?」

「かもね。私は愛する方があってるってお姉ちゃんが言ってたから、悪魔も愛せるはずだよ、きっと。」


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