☆☆☆☆☆

「ディアレスツのメンバー、幼なじみタイプの真藤ありさ。オーソドックスな委員長タイプ月ヶ丘怜。ツンデレのテンプレート、霧島・クロ―デット・トレヴァ―。ありがちで、どこかで見たようなキャラ。彼女たちはだからこそ強い」


「似たようなキャラは淘汰・統合され、最も平均的なユニットに価値がある――I・DOLLはそう判断したという事か」

「整った顔の定義は特徴の無さとイコールだからね。もっとも人間の場合は、それに加えちょっと特徴的なパーツがあったほうが好ましいそうだけど――」


 自らのくまのできた眠たげな目を指し示すアル。


「僕のたれ目や、君の微乳はI・DOLLにとって偏り、マイナスとしか判断されないってわけだ。ぽっちゃりやヤンデレはもちろんアイドルに相応しくない。実妹や義理の母設定なんかもってのほかだよ」


 アルには他に撥ねられるに足る明確な理由があるようにも思うが。

 特徴的な髪形や、控えめな性格はアイドルに相応しくないのか?


 脳裏に思い浮かんだのはさやの姿。


 不意に記憶がよみがえった。涼代さやは、私がコールドスリープする直前、プレイしていたゲームで、全てのカードを揃えられなかった最後のキャラクターだ。


「開始してわずか12時間で現在の状況に収まり、以来ずっとこのままだ。I・DOLLは、すでに意識と記憶をアーカイブに移した僕にとって自己の一部でもあるし、介入しようとすると自家撞着に陥ってしまう。起きて貰ったついでに、君が手を貸してくれると非常に助かるんだけどね」

「そうだなアル。久し振りに、ゲームを始めようか」


 涼代さやは、私にとって決して価値のないアイドルなどではない。


 翌日。私とアルバートは、さやを連れて街の広場に出向いた。私たちの同行に、彼女は少し眉を下げただけで、特に異を唱えなかった。

 ステージの周りには既にアイドル達の人だかりができ、始まったディアレスツの曲に合わせ腕を振り上げている。参加しようと揚げかけるさやの手を取り、私は首を振った。

「さあ、ニューワールド・ドミナンスのライブの始まりだー!」

 アルの合図で、広場に新しいステージが組み上げられて行く。その上に立つ私達3人の視線は、ディアレスツのそれとようやく同じ高さになった。


「歌って、さや」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る