☆☆☆

 短い脚でのこのこ歩くロボットに連れられた先は、私がコールドスリープ前に何度も足を運んだ、アルバートの住まいそのままの建物だった。


「変わらないな。仮想空間内でなら、もっと気の利いた外観に出来るだろうに」

『貧乏性なものでね。環境が変わると、どうも落ち着かない。それに、仮想空間だからこそ、広さや見かけにこだわる意味もない』


 ロボットに促されアルの私室のドアを開けると、いつものアルの定位置のデスク前の椅子には、一人の少女の姿があった。ぼさぼさの灰色の髪に、睡眠不足らしい眠たげな目。腕をまくった白衣の下は水着という奇抜なファッション。


 この少女もアイドルなのだろうか。けれど彼女には、コンサート会場に集ったアイドル達と違い、くすんだ印象は受けなかった。


「アル……この子は?」

「ああ、こっちが僕のアバターだ」


 足元のロボットへの問いに答えたのは、目の前の少女の方だった。


「お前かよ!!? っていうか、それならわざわざロボットを寄越すなよ!」

「僕が出不精なのは知っているだろ?」


 アルバートは澄ました顔でうそぶくが、すでにアバターを使っているんだから、かえって二度手間じゃないのか?


「それに、君だって同じようなものじゃないか。その身体、まんざらでもないんじゃないか?」

「私は頼んじゃいないぞ!?」


 確かに鏡で確認したこの身体は、黒髪ショートに微乳と、私の好みのキャラを知り尽くしたアルバートならではのチョイスだと感じはしたが――


「そうかい、それは残念だ。僕のこの姿のほうは気に入ってくれたようだね」

「ばば、馬鹿を言うな!?!」

「真に萌えるキャラは紳士が造るものだ。驚くことでも、恥ずかしがることでもないさ」


 反応したように見えたのなら、それはアルのアバターに他のアイドルにはない生気を感じたからだ。


「挨拶はもう十分だ。そろそろ事の次第を説明してくれないか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る