第150話
「とまぁやって来たはいいけど、肝心のアンラ・マンユってどこよ?」
十夜が呟く。
『ティファレイド』の広場は一言で言うなら悲惨そのモノだった。
綺麗な町並みは破壊され、怪我人も多く見受けられる。
「――――――多分あの『アヴェンジャー』って中なんじゃないかな? あの機体だけ妙に嫌な予感がする」
黒いオーラを漂わせながらバーサーカーとは違った漆黒の鋼がギチギチと音を立てる。
どうやらあの機体が彼女達の言う『アヴェンジャー』というモノなのだろう。
スラリとした
しかしこの二機の違いは圧倒的存在感だった。
「(なんつー、禍々しさだよ)」
十夜の肌に感じる明確な殺意。
物言わぬ機械からは想像が付かないほどの
「まーた厄介なモンが出て来やがって…………来栖川、何とかフォロー出来そうか?」
「―――――やってやれない事はない、かな? 難しいには変わりないけど」
どうにも歯切れが悪い。
だが無理もない話だ。
相手は自分の魔術ですら完全に消滅する事が出来なかった魔物と同等の存在なのだ。
「まぁ、一応モノは試しに―――――ッ!?」
アリスが言い終わる前に物凄いスピードで二周りほど大きな岩石が飛来する。
その岩石にも黒い靄のようなオーラが纏っており、触れると危険だとアリスは直感した。
「〝大きな柿の木育てよう〟ッ!」
地面に魔法陣が描かれそこから枝分かれする様に光る木がアリスを護るように伸びていく。
「〝実った果実は甘くて美味〟! 〝地を這うモノには〟―――――」
枝分かれした先に光の弾が実りその輝きを増していく。
そして、
「〝苦くて硬い実がお似合いよ〟ッと!!」
マシンガンのように発射された魔弾は投げ放たれた岩石を削る様に粉々に砕いていった。
攻撃、そう呼ぶには余りにもいい加減で原始的な方法にアリスが戸惑っていると、瓦礫と化した岩石の陰から鋼の鉄塊を持ったコウランが突撃してくる。
「オ、ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
「!?」
不意を突かれたアリスが驚き硬直すると、
「させるか!!」
十夜が割って入り鉄塊を蹴り上げた。
ガァンッ! と鈍い音が周囲に響き体勢を崩したコウランの懐に十夜が飛び込んだ。
腰を捻り掌底を極限まで捩じりこむ。
狙いをコウランのがら空きになった
「喰ら―――――」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」
雄叫びと共にアヴェンジャーが十夜へと突進してくる。
手には何処かに落ちていた木材を携え大きく振りかぶってきた。
「(ただの木をバットみてぇに振り回すだけ――――――――――ッ!?)」
ただの木材ならば十夜でも、アリスでも簡単に防げるし問題はない。
そう、ただの木材ならば。
しかし、アヴェンジャーが持つ木材からは背筋が凍るほどの〝何か〟があった。
「づ、ぉ、―――――おあああああああああああッッッ!!」
身を翻しながら十夜は地面に転がるようにしてアヴェンジャーの攻撃を躱した。
直後、
何かの爆撃でも起きたかのような衝撃が十夜の身体を襲った。
飛び散った礫が容赦なく十夜の身体を叩き付ける。
「いってぇ―――――」
悶絶する十夜に構わずアヴェンジャーとコウランが追撃する。
その攻撃を今度はバーサーカーがまとめて受け止めた。
「ゥ、――――、ァッ」
「邪魔を、するなぁっ!!」
コウランの持つ鉄塊がバーサーカーの脇腹に突き刺さる。
痛覚があるとは思えないが、やはり中身を知る身としては気が気ではなかった。
「大丈夫か! マキ―――――」
言い終わる前にバーサーカーの剛腕が一人と一機を弾き飛ばす。
忌々しい目をコウランは自分達の邪魔をするバーサーカーへと向けた。
「なぜ邪魔をするバーサーカー! コイツらはお前の
そんな
そんな様子を見て更に腹を立て歯ぎしりをしたコウランだったが、その姿を見た立体映像の博士が鼻で笑った。
「フン! しばらくは大人しかったと思えば子供のように駄々をコネおって! いつからキサマはそんなわからず屋になった!?」
「長老―――――」
そこにいた事に今気付いたようでリコリス(ついでに博士)を一瞥する。
自分を、自分とマキゥエを育ててくれた親であり、恩師でもある
が、
「あ、がっ―――――――――――――」
コウランの頭の中に
呪え、
呪え呪え、
呪え呪え呪え呪え――――――――――――――、
呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え。
囁かれる呪詛はやがて〝黒い靄〟となりコウランを包み込む。
より黒く、よりおぞましく、そしてより一層憎悪を増して。
「あ、ああ、――――――――――――――――――――――――――」
際限なく〝呪い〟がコウランを襲う。
「ああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
「ねぇ、とーや」
「あぁ―――――またかなりメンドくさいのが憑いたな」
ゴキゴキゴキィィィと骨が軋む音が響く。
メリメリメリィィィと皮膚を突き破る音が響く。
涎を垂らし、顎は裂け、見た目が好青年だったコウランの姿はどこにもなく、
そこにいたのは、
「オ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!」
獣と化した害獣だった。
「姿を変える呪い―――――魔術にも同じようなモノはあるけど、精々見た目が変わるだけの簡易魔術なんだけど」
「ありゃもう〝呪怨〟だな。
十夜が呟くと軽く舞うと右腕に力を込める。
右腕が姿を変え、肘から乳白色の角が現れた。
悪魔の腕を構え十夜は目の前のコウランを、そして五月蝿く嗤う
「コウラン―――――今からその鬱陶しい
決着はまもなく。
そして、別の場所に出現した『この世全ての憎悪』の余波を
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