第149話
四章 『
『ティファレイド』でアリシアが亜人達に話を、万里と大河が『鉄檻の楔』、蓮花と杏樹が『静謐の柩』、及び『王国騎士団』第二師団副団長マレウス・マレフィカムと戦闘を始める少し前まで話は遡る。
神無月十夜、来栖川アリスとリコリスに連れられた博士は『ティファレイド』よりも奥深くに位置する『
やって来たのだが―――――。
「なぁ、ホントにここで合ってるのか?」
「…………それ、ボクに聞いてるの? まぁ気持ちは分からなくはないケド」
二人は思わず『正義の都』と呼ばれる場所を―――――いや、建物を見上げる。
無機質な白く大きな建物。
壁には太陽の光に反射されるように窓が幾つも取り付けられていた。
そして十夜達の正面には入って下さいと言わんばかりにガラス張りの扉が取り付けられている。
この建物を十夜達は〝知っている〟。
「…………『○×科学研究所』って色々とツッコミどころ満載だなオイ」
「何か久しぶりに見た気がする、日本語」
彼らが言うように、そこは何処か懐かしさを感じる建物だった。
白いコンクリートの壁に蔦のようなモノが巻かれてはいるものの、その姿は現代においてはビルのように見えた。
「電気は―――――通ってるっぽいね」
正面に位置するガラスの扉、自動ドアの前に立ったアリスはセンサーに反応するドアを眺めながらポツリと呟いた。
「………………なぁ博士。ホントにこの中にそのアンラ・マンユってのが居るのか?」
「―――――いる」
一拍を置いて力強く言い切る博士。
そう言えば、と十夜は思い出す。
―――今は誰も手出しが出来ない領域へと住み着いた正真正銘の化け物。
博士は確かにそう言っていた。
誰も手出しが出来ない、それが一体どのような場所なのかは想像がつかないがそれでもある種の〝予感〟というモノはある。
「(この背中がヒリつく感覚…………確かに〝何か〟がいるのは間違いない、な)」
今まで戦ってきた中でもこの感覚に覚えがあった。
それは『魔術師の宮殿』にいたシュヴァルツヴァルト―――――あの魔物と同じ感覚。
間違いなくこの場所は何か〝肝心なモノ〟があると今一度気合を入れ、十夜は一歩を踏み込もうとした。
「待って」
盛大に横やりが入り思わずコケそうになった。
顔を上げると、そこには顔色が優れない少女が立っている。
「お兄ちゃん達、この先に行くの?」
「お前は―――――マキゥエ、だっけ?」
桃色の髪にこの世界では珍しい衣装(ライダースーツ)を着た少女が何故かボロボロになりながらバーサーカーにもたれ掛かっているいる。
よく見ると、バーサーカーも所々が破損しており火花を散らせていた。
「お、おい! 大丈夫か!?」
十夜が駆け寄ると、どうにもマキゥエが困ったように弱く微笑んだ。
「わたしは大丈夫。それよりも大変な事が―――――」
しかし、そんな彼女の話を遮るように驚いた声が上がる。
「お前―――――マキゥエか!?」
「博士、久しぶり」
どうやら旧知の仲のようだが、それでも博士の驚きは尋常ではなかった。
その反応はまるで幽霊でもみているようなモノだ。
「何だ? 博士知ってるのか?」
十夜が訊ねると、
言い淀む博士の代わりにその疑問に答えたのはリコリスだった。
「解答、彼女の名はマキゥエ―――――コウランの妹君であり数年前に亡くなった亜人でもあります」
あぁ、なるほどと納得が出来た。
もちろんマキゥエが死者だったという事もだが、博士が
「ってか、よく考えると立体映像のハカセもまぁまぁ似たような存在だけどね」
「言えてる」
呪いに詳しい十夜や魔術師であるアリスにとっては、その辺りの事情は日常茶飯事なので特に気にする事は無かった。
「で? マキゥエは一体何があってこんな場所にいるんだ?」
「き、貴様正気か!? ほ、本来この娘は死んで――――」
「はいはーい、ハカセは黙ってようね。〝
魔術を展開したのか博士の声は聞こえなくなった。
そして改めてボロボロになっている霊体のマキゥエに膝を突きながら優しく問いかける。
「昨日、
アイツ――――――そう言ったマキゥエの表情は忌々しく歪んでおり嫌悪感を隠そうともしなかった。
そして、十夜はそれが何を指した言葉だったのかが理解する事が出来る。
「『この世全ての憎悪』―――――アンラ・マンユ、か?」
マキゥエは頷く。
どうやらこの場所にいるのは間違いないようだ。
しかし、
「なぁ、そのアンラ・マンユってのはどこにいるか分かるか?」
気配はする。
腐食したような臭いもする。
だが、
あのシュヴァルツヴァルトですら覚醒する前に感じた重圧がだ。
「………………多分、もうここにはいない」
「いない?」
いないのならば話が変わってくる。
一体どこへ行ったのか、その事を聞く前に映像の博士が何かバタバタと手を振っているのが視界に入った。
何がしたいのか分からなかった十夜だったが、アリスが何かに気付いたように呟く。
「〝
「―――――――――けと言っただろうッ! ってなんだ! ようやく声を出せたぞ!!」
どうやら消音魔術を解除したようで博士は今の今まで必死に何かを言っていたようだった。
「あぁクソッ! 色々とツッコミたいが時間も限られている―――――いいか? そのマキゥエが
博士が言い終わる前にリコリスが壁に埋め込まれていたパネルを操作し始める。
「いいか、ヤツはこの研究所を通して『電脳世界』に入り込んでいる」
「あ? 何だって?」
博士曰く、アンラ・マンユは実体を持たない幽鬼のような存在でありその特性を生かしてこの科学研究所から発信される電波を乗っ取っているようだった。
「ヤツの
なるほど、と簡単に納得が出来た。
そのアンラ・マンユがそんな幽霊のような存在だというのなら出現方法は多様する事が出来る。
要するに一時流行った、テレビを通じて現れる幽霊が幅を利かせ好き放題していると認識する事が出来た。
「つまり、マキゥエがボロボロになったのは同じ霊体であるアンラ・マンユに遭遇したからって事か」
十夜の言葉に無言で頷く。
「アンラ・マンユはよりにもよって兄さんが造り上げた
十夜とアリスが目を合わす。
どうやら事態は非常に不味い方向へ向かっているらしい。
「マキゥエのお兄さんはコウランで、そのコウランと一緒にアンラ・マンユが憑いて行ったって事は」
「あぁ、人の憎悪を好むようなヤツだ。今のコウランはアンラ・マンユってヤツにとって今一番の好物になってんだろうよ」
憎しみ全てを壊したいと思うような感情を爆発させるならば行先は一つしかない。
十夜とアリス、そしてリコリス(ついでに博士)は研究所を後にしようと飛び出す。
だが、
「ッ―――――やっぱりってかなんて言うか」
「邪魔だな」
研究所の外にはいつの間にか大量の魔物が集まって来ていた。
しかし、どの魔物もこの『ティファレイド』では見ない魔物が殆どだった。
「なーんかほとんど透けてない? ユーレイ?」
アリスが呟く。
ゆらゆらと揺らめいているのは絵に描いたような幽鬼の類。
人の怨念から生まれた『ゴースト』と呼ばれる魔物だった。
「―――――――――――――――鬱陶しいから速攻で片付ける!」
ダァン! と足を踏み鳴らす。
その衝撃で十夜の影が揺らめき波を打つ。
「『悪食の洞』!!」
無数に伸びる触手のような影が一斉に飛び出しゴースト達を貫いていく。
しかしその数は減るどころか寧ろ増え続ける一方だった。
「あぁもう!! 多いな!!」
「とーや、ここはボクの
その提案は流石に承諾し兼ねる。
アリスの魔術は確かだがここで放出されると周囲にどれだけの被害が出るか想像もつかない。
だが、
「私がやる」
ギギギギギッ、とバーサーカーが軋みながら一歩前へと出る。
どうやらこのバーサーカーの中にマキゥエが憑いているようだった。
「おいおいおい! お前の
「問題ない。それよりも私は兄さんを助けたいし止めたい―――――だから、こんな所で消えるわけにはいかない!」
無骨な鋼の肉体から蒸気が噴き出し単眼には真紅の眼光が輝く。
それが合図だと言わんばかりに、電流が辺りを包みバチバチバチィィィッ! と放電する。
「―――――『
周囲が閃光に包まれる。
オーブンレンジのように
気が付けば周囲は焼け焦げ焦土と化している。
「す、すげぇ」
「わぉ」
思わず声を漏らす十夜とアリスだったが、唯一博士だけが勝ち誇ったように鼻息を荒げる。
「どうだ見たか! これが俺の弟子の実力だ!!」
誇らしいのかドヤ顔が余計に腹が立つ。
「………………何かムカつくけど、ンな事言ってる場合じゃねーよな」
「同感。早く行こう――――――アリシアが心配」
二人と二機(と二体)は急いで向かう事にした。
コウランが向う場所は何となく想像がつく。
案の定、爆音が知った方角から轟き手遅れになる前に急ぐ事にする。
そして、最後の戦場となる『ティファレイド』で彼らは対峙する事になる。
姿を見せる事無く、全てを憎悪によって飲み込もうとする
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