第104話

 「あの…………本当にごめんなさい」

 「とーやは心が広い。だから許してくれるよ」


 女性陣二人は自分達に非があるのを認めているのか何処か罰が悪そうにしている。


 「瀕死の重傷人に追い討ちかけるってどうなの? これシリアスパートなら死んでるよ? ギャグパートに感謝だよ!?」


 頭には苦無が突き刺さり身体には至る所が焼け焦げている。

 簡単に言えばいつもの光景だった。

 気が付けば外で飲み明かしていた万里と大河の二人も合流していた。


 「ま、冗談はさておき」

 「冗談で済ますなよッ!」


 そんなやり取りを終え五人は魔物の襲撃と共に逃走した一家が住んでいた空き家で顔を見合わせる。

 ローファは愛しの『剣聖』の頼み、そして深夜という事もあり退室している。

 残った面子でこの場を借りてハッキリとさせたいことは二つだけ。

 一つは刀堂大河という青年の件。

 これに関しては十夜と大河はそれどころではなかった為、蓮花とアリスの二人から聞くとし、問題はもう一つ。


 「一体、神無月くんに何があったんですか?」


 最初に口を開いたのは蓮花だった。

 今まで見た事のない〝呪いちから〟の暴走に加え何故あんな無茶をしたのか?

 しばらく無言が続いたが、いい加減堪忍したのか十夜はゆっくりと口を開く。


 「まずは本当にすまん。大河―――だっけ? アンタにもスゲェ迷惑をかけた」


 ひとまず謝罪を述べると十夜は自分の影を見つめる。


 「万里達三人には説明したと思うが、俺はちょっと前に『悪食の洞クソッタレなのろい』にとり憑かれた。コイツの名前の由来は。俺の影の中は『悪食の洞コイツ』の簡易的な牢獄いぶくろになってると思ってくれりゃいい」


 忌々しく影を見下ろす十夜の視線は怨嗟が籠っているのをその場にいた全員が肌で感じた。

 そんな視線を反らし十夜は呆れたように天井を見上げる。


 「ま、そんな事言ってもコイツがいなきゃ俺自身は無力だから嫌でも付き合っていかなきゃなんねー力でもあるんだけどな。俺の〝鬼神楽〟は人外にも有効だが決定打がねぇ。だからこそ『悪食の洞コイツ』の出番なんだが」


 怪我に耐えながら十夜は窓際に立つ。

 夜空に浮かぶ双月を見上げながら拳を握り締める。


 「俺がこの『悪食の洞』に喰わせた奴らは。『グランセフィーロ』に来てからスライムを数十体にプラスして『魔術師の宮殿』に出てきた魔物レギオン――――まぁコイツらは今は除外でいい。それに王国の地下迷宮で戦ったヘカトンケイルデカブツ改め『黒縄操腕こくじょうそうわん』。『死臭を晒す捕食森シュヴァルツヴァルト』戦とここで魔力を枯渇させた『涸渇魂奪こかつこんだつ』改め『飢潤庭園枯渇ノ巫女きじゅんていえんこかつのみこ』。あと


 絶句する。

 前から薄々は感じていたが、知った呪いもあればまだその本質を見せていないモノがまだ八つも残っている―――それは最早一つの兵器と変わらないのではないのか?

 そんな風にさえ思ってしまうほどだった。

 彼の話を聞いていた『魔術師』来栖川アリスが「なるほど」と呟いた。


 「魔術の世界オカルトには〝陰陽道〟ってのがあるけど、もしかしてとーやの『鬼神楽』はそれに通じてるのかも…………あれほどの呪いを使役するなら陰陽道それが該当しそうだし」


 アリスの考察に十夜は短く頷く。


 「あぁ、師匠もンな事言ってた。鬼神楽の絶招おうぎは二つ。一つは中国武術を取り入れた徒手空拳の舞踊、もう一つは神魔妖霊の類いを調伏させる舞踊―――――この二つだ」


 そこまでの説明を聞き、今度は万里が控えめに手を挙げる。


 「拙僧が見たあのヘンテコな武具は何ですかな? 黒い外套や先の戦いで見せた車輪の靴などは?」

 「そうだな………少し話を戻すと鬼神楽の絶招に神魔妖霊を調伏させる舞踊の話をしたろ? ありゃ『鬼衣おにがさねの陣』っつーもんで『悪食の洞』に封印している『聖遺物』………いや〝呪物〟っつたらいいのかな? まぁ曰く付きアイテムみたいなもんだ」


 道理で、と納得が出来た。

 あれほどの禍々しい気配を出しているのだから普通ではないと思っていたが、どうやら彼らの想像を余裕で超えた返答だった。


 「では神無月くんの呪いが暴走したのは?」


 蓮花が訊ねる。

 その事についてはあくまで推測の域だが、と十夜は前置きをし呆れたような声で言った。


 「あのハインベルクってヤツが言ってたけど、あの奇妙なな奴らは〝天使〟っつてたろ? ―――――それに…………」


 そこまで言うが十夜は口を閉ざす。

 皆が不思議そうな顔をしていたが十夜は「何でもねぇ」とそう言って十夜は自分の足にそっと触れる。

 傷が痛むが、これは自分が未熟だった為に受けた傷なので戒めとして受け入れるつもりだ。

 周囲に迷惑を掛けて、それが万里やアリス、そして蓮花達のような歴戦の強者だからこそ最小限に被害を抑えることが出来た。

 それに異分子イレギュラーでもある大河も居たからこそ大事には至らなかった。

 もしこの四人が居なければどうなっていたか、十夜はそれを考えるだけでもゾッとした。


 「(今回はアイツらのおかげでなんとかなった、けど次に同じ事が起きたら?)」


 強くならなければ。

 

 そんな事を思いながら十夜は新たに決意する。


 「(『聖光教会』に『ファウスト教団』―――――か)」


 新たな脅威てきに十夜は嫌な予感を感じつつ本当に全員が無事で良かったと安堵するだけだった。

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