第103話
日もすっかり暮れた『ラムド平原』のとある小さな町『テットヘット』。
そこで『迷い人』たる四人は休息を取っていた。
この町は『ケツァルコアトル』が狩り場とした町だった為、住人は少なかった。
しかし、話を聞いている内にどうやらその魔物を討ち取ったのが刀堂大河という事だった。
「大河殿は中々に素晴らしい居合術を身に付けているようですな! 拙僧も見えませんでしたぞ!?」
「いやいや万里氏も素晴らしい気功でしたぞ―っ! まさか異世界で僧侶――――しかも現実世界の
すっかり馴染んでいた。
こちらの世界の
それを聞いた蓮花は、
「でもこの世界に来た時が大学デビューと言っていませんでした?」
そう訊ねると、何処か遠い目をしながら「そんな事もあったねぇ~」とだけ呟き、蓮花はそれ以上は深くツッコめなかった。
アリス曰く、どうやら深く入り込んではいけない領域だそうだ。
要は大の大人二人が人の気も知らず呑気に酒盛りをしていると言うことだ。
そんなダメな大人を横目に蓮花とアリスは町の少女、ローファと話をしていた。
褐色活発の彼女はどうやら『剣聖』たる大河に恩があるらしくかなり心酔しているようだった。
その証拠に、
「『剣聖』様の素晴らしさですか? それは勿論〝最強〟なんです! 何故そうなのかと言いますと冴え渡る剣戟に目にも止まらぬ早業で魔物を一蹴させる技量!! そして我々のような教会や国に見捨てられた民を助けてくれた寛大な器!! その広さはこの『ラムド平原』の如くであの方の美しく輝く黄金の頭髪は全ての闇を葬り去り白銀の刀身は全ての障害を切り裂く刃! そんなお方に我々は一生最後まで着いていこう心に誓いました!! そして、そしてあわよくばそのまま私の初めてを――――――いやん、デュフフフフ!」
大河の早口は伝染でもするのだろうか?
そんな疑問が過るが今はそっとしておこうと誓う蓮花とアリス。
ようやく落ち着いたのかローファは軽く咳払いをし濡れたタオルを蓮花へと渡した。
少し湿らせたタオルを隣で寝ていた十夜の額へとそっと乗せる。
十夜は四人の中で一番重傷だった。
両足の骨が折れ筋肉の断裂。
身体中の所々に内出血が見られとてもではないが、生きているのが不思議なほどだった。
「でも何でとーやはこんな無茶をしたんだろうね?」
アリスが呟く。
確かに今までも強敵とはかなり戦ってきた。
その度に苦戦はするが何とか勝利を収めてきた。
だが、今回のは今までと全く違う。
周囲に―――――特に自分達を巻き込んでまで無茶をする理由が思い当たらないのだ。
「それは分かりませんが―――――やむを得ない事情があったんだと思いたいですね」
蓮花はふと呟いた。
今までの十夜の行動からは結び付かない行動。
それが彼の意思ではないと信じたいのは変なのだろうか?
蓮花はこの世界に来てから自分の〝価値観〟が崩れていくのが怖かった。
今まで誰も―――――『
そう言った環境で育った為信頼を置けるのは唯一肉親の兄だけだったのだ。
「レンちゃん? 恋する乙女みたいな顔してるねぇ」
不意にアリスが声をかけてくる。
どうやら呆けていたようで何でもないと慌てて手を振った。
「ブフォッ!? ば、ばばばばばばば馬鹿言ってないでこれからの事を考えて―――――」
「はっはっは、よいではないかーよいではないかー」
そんな
「レンさんもアリスさんもこちらの殿方の方に好意を抱いているのですか?」
そんな
どう伝えようか迷っているとローファの表情は徐々に暗くなっていく。
「まさか――――貴女方も『剣聖様』に想いを!?」
真っ白になったローファはどこぞの婦人のように白目を向いていた。
いやそれはない、そう答えようとしたがローファの耳にはもう何も聞こえていない。
「恋敵が二人も!? いえ、私が一番『剣聖様』をお慕いしています―――――えぇ、そうですよそうですとも私はお二人のように強くもなければ可憐でもないですがスタイルはぶつぶつぶつ………………」
目が完全に逝っていた。
蓮花とアリスは恐怖に戦くが、スタイルは関係ないのでは? と疑問を持ったがそこは何も言わなかった。
「――――――あの、さっきからうっせーんだけど」
ビックゥゥゥッ!! と身体を強張らせた二人はゆっくりと視線を動かす。
どうやら十夜が目を覚ましたようでゆっくり身体を起こし、頭を押さえていた。
「痛ててて…………俺はどれくらい寝てたんだ? ってあれ? 何か鳴上さんと来栖川さんや、何やら殺気立ってませんか?」
何かと聞かれては良くない会話の途中だったのだが、そんな事は露知らず十夜は苦無を構える蓮花と指を銃のように構えるアリスに恐怖する。
「えっと―――――取り敢えず俺何かしました?」
本当に今しがた起きたばかりの十夜なのだが冷や汗が止まらない。
「「もう一回寝てろってか記憶飛ばせッッッ!!」」
万里と大河は何も聞こえなかったのか呑気に酒盛りをし続けていた中、理不尽を感じつつ十夜の絶叫が夜の『テットヘット』に響き渡った。
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