第67話
「で? 情けなく逃げ帰ったって事かァ?」
報告を受けたユリウス・マーベッケンは呆れたように自分の部下でもあるエレクティア・ノーズは両手を広げ困ったような表情を浮かべる。
「そうは言ってもユリウス様? あの子、結構やり手よ。しかも途中で見た事ない魔物もやって来ちゃうし」
嫌になっちゃう、そう言ったエレクティアは改めて先の戦闘での事を思い返した。
あのまま戦っていても果たして勝てたのだろうか、と言うのがエレクティアの正直な感想だった。
彼もまたこの『ディアケテル王国』に仕えて長いが何度か異世界召喚の儀式を目の当たりにしてきた。
その時の感想としては、ただ若い子達が〝異世界〟と言うワードに喜び、いざ戦いとなると怖じ気付く。
大体がその繰り返しだったのに対し、彼女は違った。
傷付くことを恐れず、他の騎士達を返り討ちにさえした。
『迷い人』と言うのは全員がそうなのだろうか?
ふと隻眼の男を思い出す。
彼もまた同じ『迷い人』だった。
当時の第二師団団長を討ち取り新たな第二師団団長となったあの男も脅威的な強さを持っていた。
「しかし解せねェ。『迷い人』ってのは俺様が知る限り〝恩恵〟は与えられてねェんじゃねーのか? なのにそいつはァ『不思議な技』を使ったんだろ?」
「そうねぇ、言うなれば見えない楯みたいなものを出していたわ。アタシの知ってる『魔法』とは違ったからあの子の能力じゃなくて?」
エレクティアは蓮花が展開させた『空匣』の理論を詳しく知らない。
エレクティア本人は〝風〟の『魔法』を使ったのかも知れないと少し見当違いの事を考えていたが、その辺りは本人に聞かなければ解らない事だ。
「しっかし、なんだって『迷い人』共は『ウルビナースの村』なんぞにいやがる? あそこは花以外何も無いハズだァ」
「それこそ知りませんわ。あの場所へ逃げたのは予想してたけど…………しかもあの森には『
『
「確か個体名が『
そう言いユリウスが立ち上がる。
「あら? どちらへ?」
エレクティアの言葉にただ不敵に嗤うユリウス。
「ンなモン決まってンだろうがよォ」
その笑みは凶悪で、それこそ悪人の顔をしていた。
「俺様も行くんだよ。『ウルビナースの村』へ」
それは意外な言葉だった。
彼は王命、もしくは第一師団団長の命令でもない限り自分から動く事はしない。
なのに今回に限って自らが動くと言うのだ。
「―――――珍しいわね。アナタが自分から動くなんて」
「そうか? 俺様はエレクと戦って生き延びたって女が気になったんでなァ。だから俺様自ら出ようってだけだァ」
舌を出しペロリと舐めずりをした。
そんなユリウスに何を言っても聞かないのは長い付き合いなので分かりきっている。
「まぁ止めはしないケド………でも気を付けてくださいね。アナタの〝恩恵〟ならまだしも、『固有能力』はアタシも巻き込まれちゃうんだから」
分かってる、そう言って第三師団の要でもある二人が出撃する。
二人が部屋を出たあと、誰もいないはずの部屋に二人組が現れる。
第二師団の団長、
「なーんか話がスゴイ事になってますね~。って言うかししょー良いんですか~? このままじゃ
マレウスが頬を膨らませ主張する。
しかし分かっていたのか、百鬼燿洸はただふっと微笑むと自分の鳩尾辺りにあるマレウスの頭を撫でる。
「言っただろう、手柄なんぞくれてやれと。まぁそんなに上手くいくとは限らんがな」
そう言った百鬼耀洸も少し気になる事があった。
先ほどユリウスが言っていた『ウルビナースの村』に十夜達がいるのは予想が出来たが、何やら話に齟齬が発生しているように感じてならなかった。
「(一体何が起きている? 何故あの馬鹿弟子は村から出ない? あの村はユリウスの言う通り花以外何もないぞ?)」
いくら考えても答えは出ない。
そこでふとマレウスと視線が合う。
「マレウス」
「いいよ~」
マレウスは何を言われるか分かっていたように手に持っていた水晶を鏡ほどの大きさに広げた。
『ヴィジョンスフィア』と言う道具には映像が流れているが、ノイズが走っており上手く見れなかった。
しかし、見覚えのある場所が映し出された。
一度だけ足を運んだ場所。
「さぁ、一体何が起きているのか見させてもらおうか」
楽しそうにしている第二師団長、百鬼耀洸はまるで今から映画を見るのが楽しみで仕方が無いといった雰囲気だった。
対してマレウスは少し不安な表情をしていた。
何せ――――――――――、
「(『ウルビナースの村』―――――かつてその特殊な植物を育て上げる事に成功し村を栄えさせる事になった栄光の村)」
そして、
「(たった一夜にして村人が消え去り今は誰一人住む者がいないという惨劇に見舞われた悲劇の村)」
正直、マレウスにとって『迷い人』だろうが、第三師団だろうが、どうでもいいと思っていた。
ただ自分の師が楽しみにしているのを邪魔するのも申し訳ない気持ちがあったので、彼女はそれ以上何も言わなかった。
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