第58話




 二章『一難去ってまた一難な最低な日』



 「ボクは『魔術師』として幼い頃から育てられた。だから『ワンダーランド』の〝Aliceアリス〟よりも『魔術師こっち』の方が歴史は長いよ」


 来栖川くるすがわアリスはその辺に置いてあった瓦礫に腰を掛けて足をブラブラさせながらトンデモ発言をした。


 「『魔術師』―――――そんなの存在するんだな」


 十夜は呟く。

 だが冷静に考えると不思議な秘術からばこを使う『くノ一』やら気功を使う『破戒僧』なんて者もいるのだからバンド活動をしている『魔術師』がいても何ら不思議ではない。


 「しかし疑問がありますな。何故急に攻撃を仕掛けて来たのですかな? 聞けば村に入る前にも十夜殿と蓮花殿の二人を襲ったのもアリス殿なのでしょう?」


 『迷い人』というワードが出たのだ。

 恐らく自分アリスを含めた四人は同じ境遇だと知っていて攻撃を仕掛けて来たのだ。

 だが、


 「そりゃ攻撃するよ。特にキミからは。まぁ魔術師としての勘かな?」


 十夜を指差し何でもないように言った。

 つまり話を要約すると、

 一度こちらの存在に気付きはしたが、十夜にとり憑いている〝呪い〟のせいで危険分子と断定された挙句、先手必殺のつもりで殺しにかかって来たという事らしい。


 自分達が知っているバンドグループのボーカリストがこんなクレイジーだとは誰も知らないし、知る事もないだろう。


 「結局、殿?」


 万里は何の悪気もなく言い退けた。


 「うん、キミの〝それ〟は生者にとって害悪でしかないよ。だから普通にヤな気配を感じたら攻撃するでしょう? 普通は」


 アリスの言う普通はかなり偏った気がするが、まぁ言わんとしている事は分かった。

 つまり、


 


 「やっぱロクでもねぇ」


 そう呟く十夜は頭を抱える。

 何となく分かっていたがハッキリと面と向かって言われるとやはりヘコむ。


 「実際それ凄い力だと思うよ、ボクでも危機感を覚えたもん。多分気付く人は気付くんじゃない?」


 アリスは感情の起伏が穏やかなせいか、悪意などが感じない。

 だからこそ歌い手として、聴く人の心に響く何かがあるのだろう。


 「――――で? キミ達は一体?」


 当然の疑問だろう。

 自分だけ素性を明かして十夜達が何も言わないわけにはいかない。

 そう思った十夜は自分の事、そして万里や蓮花の事を話し始めた。


 昨日突然この世界に呼び出された事。

 魔物という存在に、『王国騎士団』との戦闘。

 異世界から正式な手順で召喚された者には、この世界の神様から『恩恵ギフト』を与えられ、それを昇華させたモノを『固有術式オリジン』という能力。

 そして今日まで続いた戦う日々を説明した。


 アリスは途中で口を挟むことなく黙って話を聞いている。

 時折、興味深そうに頷いたり身を乗り出して聞き入ったりしている。

 大体の説明を終え、宮殿の前で三人はしばらく無言の時間が過ぎていった。

 そして、


 「大体は分かった」


 とアリスが呟く。

 不思議な存在は不思議な出来事を理解するのも早いようで、話をまとめあげる。


 「まずここはやっぱり異世界―――――『グランセフィーロ』って場所。この二日ほど変な魔物モンスターは何体か倒したけど、やっぱり敵意はあったんだね。で、その中でも厄介なのが『王国騎士団』って連中かぁ」


 「あぁ、とにかく面倒な奴らだ。正直、今では何とかなってる状態だけど彼方あちらさんが総出で襲撃してきたらキツイ」


 十夜の言葉に興味があるのかないのなよく分からないトーンで「ふぅん」とだけ言った。


 「して、アリス殿の経緯を聞かせてもらっても?」


 万里が言うと少し考えてから喋り始める。


 「ボクはここに来てから森をさ迷ってたんだけど、まぁ人に会ったのはこの『ウルビナースの村』の人達だけかな? あとはさっきもいったけど魔物に襲われた。この村の人達に村にいてもらっても構わないって言われたけど、今朝から急にこの遺跡から魔物が噴き出して今に至るって感じかな?」


 なるほど、と十夜は納得した。

 確かにこの付近で魔物の群れが爆散しているのを見ていたので違和感は無かったが、気になる事が一つあった。


 「そういや何で俺の事気付いたんだ? 幾らがいるって分かっててもそう簡単には気付かないだろ?」


 「それは簡単だよ。


 新しい言葉が出てきた。

 『結界』とな?


 「対侵入者用の〝結界〟だね。一日一泊の恩で何となく張ったら凄い獲物が釣れたから出向いた」

 「俺は魚かッッッ!」


 十夜のツッコミにアリスが少し得意気にしていたのも何か腹が立った。


 「まぁいざ対峙してみれば実際はもっとすごかったけど、話してみれば普通の――――――――」


 そこで話が途切れた。

 アリスはふと立ち上がるとどこか遠くを見つめるように視線を明後日の方へ向ける。


 「どうした?」


 十夜が訊ねると、


 「んとね、


 と、かなり面倒な事が起きたようだ。


 「このタイミング―――――もしかしなくても『王国騎士団』か」

 「でしょうな。拙僧らで王国からこの場所まで数時間ほどでした。足が付くとすればまずこの村でしょうな」


 偶然にも、蓮花と同じ考えに至った二人は立ち上がると遺跡を後にしようと歩き始めた。

 しかし、


 「待って」


 とアリスが止めに入った。

 二人が振り替えるとアリスの表情は無表情ながらに少し困惑していた。


 「マズイかもしんない」

 「どうしたんだよ?」


 十夜の質問にアリスは遺跡の奥―――――正確には宮殿の奥を指して、



 「奥から生体反応―――――



 どうやらこの世界に来て以来の一番慌ただしい出来事イベントが起きたようだった。



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