第57話
幕間『〝魔術師〟来栖川アリス』
魔術師、それはこの世界においての魔法を使う者とは違う。
元来魔術とは魔力を利用する知識と技術を合わせたものであり、科学的推論や根拠に基づいて実践される方法の一つになる。
魔術を行使する者が魔法使い―――ではなく、魔術師と呼ばれるのは、原理や法則などの知識を身につけている者をそう呼んでいる。
この来栖川アリスと言う少女も代々受け継がれている魔術師の家系に産まれ、日々魔術に没頭していた。
特に幼少期から小学生までは自分もそう在るべきだと思っていた。
あの日までは。
偶然立ち寄ったCDショップで見かけたビジュアルバンドグループが目に留まり、何気なく聴いた時に衝撃が走った。
力強い音楽と歌声。
聴く者に喜怒哀楽を与える『音楽』という存在は、今まで『魔術』と言うモノしか知らなかった少女に僅かながらに〝希望〟を与えた。
―――――人は何にでも成れる。
当時ハマっていたグループのボーカリストが言っていた名言だった。
そんな言葉が胸に刺さり、
だが、
来栖川の家を継ぐ予定でもあった彼女は父親にその事を言えないまま『魔術』と『音楽』の両方を両立させていた。
そしてしばらく時間が経った頃、
学校で友人達と何となく作ったバンドグループ、『ワンダーランド』がプロデューサーの目に留まりスカウトされたのだ。
初めの内は喜びが強かったが、徐々に不安も大きくなった。
『魔術師』の家系としての責務。
『ワンダーランド』のメンバーとしてやっていきたいという願望。
そんな二択を迷っていた時、
家族に『
もちろんその事は家族から、特に弟や母親からは猛反発を受けてしまった。
その事で悩んだアリスは全てを投げ出し、新しく人生を歩んでいこうと決意した。
しかし、
意外にも厳格だった父親は彼女に賛成した。
―――――お前の人生だ。好きにすればいい。
そう言われたのを今でも覚えている。
大切な思い出。
そして新しい自分に生まれ変わった出来事。
そこからは一気に自分を変えた。
まず長かった黒髪をバッサリと切ってボブにした。
そこにメッシュを入れてバンドガールのイメージに合わせた。
思い切ってピアスを開けた。
それはさすがに父親には引かれた。
毎日が楽しかった。
母親と弟は相変わらずアリスを見る目は良くなかったが、それでも新しい人生に向かって歩き出した。
それが、
来栖川アリスの一番最良で最高の日々だった。
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