第56話
十夜の耳にその〝
記憶に新しいその歌声は十夜の直感を震わせる。
「万里!! 離れろ!!」
十夜の叫びに即座に反応した万里は物陰に隠れるように様子を窺う。
すると、
「〝砕け逝く足元に〟」
謳が響いた。
透き通るようで力強いその歌声は宮殿があるこの空間に反響していく。
「〝重なる
「〝救いの空は深紅く渦巻く惨禍と
地面が光り何かが生えてくる。
それは白く輝く彼岸花。
一面に咲き乱れる白い彼岸花が風もないのにゆらゆら揺れている。
「
地面全体が揺れるほどの爆発が巻き起こる。
爆撃が二人を襲い全てを飲み込む。
後には荒れ果てた家屋と遺跡だけが残り、
「呆気ない」
とフードを被った人物が呟いた。
「あ、しまった―――――目的を聞くの忘れた。まぁいいや………多分もう生きて」
爆煙に紛れて〝何か〟が飛んでくる。
「ッッッ!?」
辛うじて躱したのは〝何か〟は謎の襲撃者よりも大きな戦斧だった。
勢いを付けた戦斧はそのまま壁に突き刺さり、
「何――――――」
驚愕する前に背後から巨腕が襲い掛かる。
『
「〝
巨腕が繰り出す豪風で軽やかに躱す。
身体を羽毛のように軽く変換させるとゆっくりと着地をした。
だが、
その瞬間を見逃す二人ではない。
挟み撃ちするかの如く襲撃者の前後から十夜と万里が襲撃する。
「チッ」
軽く舌打ちをする。
しかし攻勢に出た二人を止められるはずもなく、万里の豪拳が、十夜の掌打が襲う。
「(捕った!!)」
しかし、
「〝陽炎揺らめく鶴の影法師〟」
捉えたはずの標的が陽炎のように消える。
同時に二人を取り囲むように数十枚の障子が出現し、その全てに写ったのは〝フード姿の影〟だった。
「〝恩を返せず鳴り止む
カタカタカタと機械音がしていたかと思うと急に鳴り止み静かになった。
「〝覗き見厳禁―――――二度見は
周囲に展開していた障子が一斉に開きその中から火柱が吹き荒れる。
「う、そ――――だろッッッッッ!!? 防げ! 『黒縄操腕』!!」
十夜は咄嗟に巨腕を自分と万里に巻き付けるように包み込み火柱を防ぐ。
「あっつ!! なにあの攻撃!? すんげぇめんどくさいんだけど!?」
「これは妖術? いや、もしかしたらこの世界の『魔法』と言うやつではありませんかな!?」
確かに今まで見た事の無い攻撃の数々。
どっちにしろこのままでは埒が明かない。
攻撃のパターンさえ分かればそれなりの対処は出来るのだが、かなり厳しい状況だった。
何せ攻撃に統一性が全く無いのだ。
恐らく、『ウルビナースの村』の森で襲って来たのは同一人物なのだろう。
しかし、以前は桜の花びらでの爆撃。
その次は彼岸花を誘爆させた攻撃で、火炎放射のような攻撃と続いている。
しかし、ここまで連続で攻撃をしていればどこかで必ず隙が生じる筈だ。
そこを狙えば―――――。
「(って思ってるんだろうなぁ)」
腕を伸ばし光る痣が輝きを増す。
トドメを刺そうと謳いかけたその時、
痣が輝きを曇らせていった。
「え、――――――?」
よく周りを見てみると空間全体が歪んで見える。
いや、
歪んでいるのは自分の視界だった。
「(何、これ? ―――――力が)」
火柱の威力が弱まり『黒縄操腕』の姿が露になる。
その巨腕が解かれると中から万里と、
呪いの痣が浮かび上がった白髪の十夜の姿がそこに居た。
「十夜殿―――――その姿は?」
しかし返事をする余裕がないのか十夜は攻撃の出所、つまり宮殿の上にいるフードを被った襲撃者を捉えた。
「み、つけた―――――ぞッッッ!!」
『黒縄操腕』が十夜を弾くように腕を振るい、同時に十夜も跳躍する。
一気に距離を詰めると腕を捩り腰を捻る。
「くっ―――――〝うさ〟」
「させるか!!」
上手く口が回らないのか先ほどまでのように謳う事が出来ない。
力が抜けていくのだ。
まともな判断が出来ない内に十夜は自分の射程内に入り込む。
本来はしっかりと踏ん張らなければならないこの技も威力は半減してしまうが、今はそれでいい。
襲撃者の鳩尾に掌打を叩き込み勝負を決める。
「か、はっ」
そのまま意識を断ちフード姿の襲撃者は宮殿の屋根から墜落する。
残心を取る十夜は深く深呼吸をし、溜まっていたものを吐き出す。
「勝った」
とは言え体力もかなり消費した戦いだったせいか、十夜は膝から崩れた。
「十夜殿!?」
駆け寄る万里は十夜に肩を貸す。
体力の消耗もだが、何より不可解なのは十夜の髪の色が真っ白に染まっている事だ。
思わず凝視していると、
「大丈夫だ。しばらくすりゃ戻る」
そう呟いた。
二人は謎の襲撃者を改めて観察する。
気を失っている為か目を覚ます気配はない。
「本当にコイツ『迷い人』なのか? にしては滅茶苦茶な攻撃だったけど」
「拙僧も半信半疑ですが――――奇っ怪な術を使うのは確かですな」
そのまま無言になる。
ずっと気になっていたのか、十夜がポツリと。
「フードの下ってどんなだろ?」
と声を洩らす。
万里も気にはなっていたが、何かこう〝背徳感〟のようなモノが込み上げてくるのだ。
「いやっ、拙僧は遠慮しておきますぞ! 南無ッッッ!!」
意味の分からない事を言い出した。
だが、こうなった十夜は誰にも止められない。
「ちょっとだけ―――――そう、顔見るだけ」
最早立派な変質者である。
フードを捲り顔を現した襲撃者。
目に入ったのは、赤みがかった紫色のメッシュが入ったショートカットのボブヘアー。
耳には片方だけで五つほどピアスも開けておりその細い首には黒のチョーカーを着けている。
そして、
「十夜殿…………拙僧はこの御仁を知っていますぞ」
「―――――奇遇だな。俺もだよ」
ピクリ、と瞼が痙攣する。
そしてうっすらと瞳を開けると少しボーッとした感じだったが、やがて意識がハッキリとしていく。
「あー、負けちゃったか」
顔立ちは整っていて少し重めのアイラインを気にしつつジト目で二人を軽く睨む。
「酷いな、一応これでもボクは女の子なんだけど?」
蓮花とはまた違った綺麗さは目を惹かれるが、問題はそこではない。
「一つ聞いていいか? 何でアンタみたいな人がここにいるんだ?」
十夜がそう呟くと、目の前にいる〝少女〟は頭を掻きながら胡座をかく。
「何でって、多分キミ達と同じだからじゃない? ボクも『迷い人』って呼ばれたから」
「人違いなら申し訳ないが、貴女はもしや―――」
万里の言葉を引き継ぐように目の前の少女はあっけからんと、
「うん。多分キミ達が知ってくれてるならボクは『ワンダーランド』ってバンドグループのボーカリスト〝
幼さを残し、妖艶に微笑む少女は裏の顔を現す。
「『魔術師』―――――
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