第51話
『ウルビナースの村』は花の名産地であり、色とりどりの花が咲き乱れる観光名所の一つだ。
特に代表的なのは先にも騒動の中心となった『ウルビナースの花』―――――乾燥させるとほのかな甘味のあるお茶になり貴族や王族の間でも高値で買い取りがされているのも相まって名物の一つになっていた。
しかしその観光名所は今や見るも無惨な光景になっていた。
「これはまた」
万里も声を出せずにいる。
あちこちには煙が上がっており家屋は半壊した状態だ。
「一体何が?」
そう呟いた十夜に答えるかのように、
「旅のお方ですか?」
と声を掛けられた。
振り向くとそこには女性がいた。
二十代半ばだろうか、艶のある紫色の髪は腰の辺りまで伸びており絶妙なボディバランスの女性は衣服が所々煤汚れていた。
気付かなかったがその後ろにも数名ほど居ており、全員の表情は明るくなかった。
誰だ? と訊ねる前に後ろにいたフェリスが声を上げる。
「お母さんッッッ!」
走り寄るフェリスに続きリューシカも「おかあさんっ」と涙を浮かべながら走っていく。
「フェリス! リューシカ!」
女性は二人を抱きしめながら涙を流す。
感動の親子の再会に『竜車』のダナンと『鍛冶屋』のなカナッシュ(この名前も道中で知った)も目から汗を流していた。
しかし、空気が読めない
「なんつーか、うん―――――デカイな」
「うむ、なんと言うかぐらまらすですな」
一体誰と比較しているのか気になる蓮花は、
「―――――――――」
ただ何となく馬鹿にされている気がしたので、無言で苦無を構えるのだった。
「そうですか――――王都ではそんな事が」
フェリスとリューシカの母親、シオンは頬に手を当てため息をついた。
唯一原型を留めている家屋があったのでそこで事の顛末を報告していた三人はシオンと向かい合い座っていた。
「はい。私達の配慮が足りなかったせいで、救出が遅れた事を謝罪します―――――申し訳ありませんでした」
蓮花は静かに頭を下げる。
そんな彼女に対し、シオンは手を振り蓮花を静止する。
「そんなっ! 貴殿方が居なければフェリスもリューシカももっと酷い目に遭っていたかも知れなかったんです………感謝こそすれ非難など誰が出来ましょう」
シオンは深々と頭を下げる。
「貴殿方はこの子達の命の恩人です―――――ありがとうございます」
無事で良かった、と思っていると少し言い辛そうにシオンが声をかける。
「あの――――そちらのお二人は大丈夫ですか?」
「いえ、お気になさらず」
蓮花の後ろでは十夜と万里の二人の頭に苦無が刺さったまま倒れていた。
何が面白いのかフェリスとリューシカはその辺に落ちていた棒でツンツンとつついてくる。
「こほん、それでは本題に入ってもいいですか?」
極力後ろの二人は無視して話を進める。
「一体、この村で何が起きたんですか?」
状況を整理するに、恐らくこの村は襲撃を受けたと思われる。
しかも昨日フェリスとリューシカがこの村を旅立ってから一日を経たずとしてだ。
蓮花がシオンを見る。
彼女の表情は先ほどと同じように曇った。
「私達も何がなんだか――――今朝方の事なんですが、村の近くにある遺跡から魔物が大量に押し寄せてきたんです」
シオンの話によると、
子供達の帰りが遅いのを心配して村人達と王国へ迎えに行くかどうかの話し合いをしていた時、『ウルビナースの村』の外れにある『
抵抗しようにも戦う術が無かった彼女達が死を覚悟した時、
空から謎の光が降り注ぎ魔物を悉く撃退したのだと言う。
「空から謎の光―――――ですか」
蓮花は十夜を見る。
丁度、同じ事を思っていたのか十夜と目が合う。
それは先ほど森の中で受けた攻撃と何か関係があるのか?
「はい。確か詩人の方…………だったと思うんですが、昨日子供達が村を出た後にふらりと現れて一晩泊まられたんです。どうやら持ち合わせが無く途方に暮れられていたので………」
昨日だとすれば
正規の召喚方法ではなく、ある日突然異世界へ迷い込んだ者―――――つまり十夜達と同じ境遇の者が他にもいると言う事だ。
しかし疑問が残る。
「その詩人ってどんな奴だった? 他に何か言ってなかった?」
十夜が身を乗り出す。
同じ境遇だったとすれば何故こちらに攻撃を仕掛けてきたのか?
その疑問は呆気なく解決する。
「本当についさっきだったんですが、突然その方が森の方から嫌な気配がすると言って向かわれたんです。その後すぐに森から爆発が起きたのでまた魔物が来たのかと身を隠していました」
つまり、
十夜と蓮花の二人が様子を見に行こうと森に入ったのと同時にその『迷い人』が二人を敵だと思い攻撃した、という事なのだろう。
「そう言えば神無月くんも最初は私を見捨ててましたね」
「ははっ、みんな考える事は同じデスカ」
しかし、そうだとするともう一つ新たな疑問が残る。
その『迷い人』はそのまま何処へ行ったのだろうか?
「恐らくですが『古代遺跡』へ向かわれたのだと―――原因を調べてくると言われていたので」
そこで今度は万里が口を挟む。
「気になっておったんですが、その『古代遺跡』と言うのは何なのですかな? 拙僧らはあまりこの辺りに詳しくなくて」
万里の肩に乗っていたフェリスとリューシカも、
「兄ちゃん達、昨日も『ディアケテル王国』知らなかったんだよ!」
「そうそう!」
と元気にはしゃいでいた。
シオンは「まぁ」と口に手を当て驚いていた。
「私達も遺跡についてはそこまで詳しく無いのですが、古代文字が書かれていてその文字が読めないんです。ただ」
少し溜めてシオンは、
「この領地が出来る遥か昔の遺産が残っている神聖な場所とだけ言い伝えられています。あとその古代遺跡に入れる者に全てを与えると云われています」
どうやら流れ的に自分達の次の行動指針が決まったようだった。
「で? その『古代遺跡』ってのはどこにあるんだ?」
十夜が訊ねるとシオンは視線を森へと移す。
「ここから東へしばらく進んだ場所にあります。村ではその場所を『
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