第50話
万里は後から他の人々と共に向かうと言っていたので、十夜と蓮花の二人は木陰から村の様子を窺っていた。
元は
『ディアケテル王国』とは違った活気があったと思われた。
しかし、
村の家は破壊されており、まるで台風が通り過ぎた跡のようになっていた。
「どうなってやがんだ?」
「神無月くん。血の臭いはしますが肉が焼け焦げる臭いはしません――――恐らく大丈夫とは思いますが」
血の臭いなんてしないのだが、蓮花の嗅覚が優れているのは知っているのでその情報を信じる事にする。
「でも負傷者はいるって事だよな? なら助けに」
行こう、そう言葉が続かなかった。
不意に強烈な
「――――――――――」
「――――――――――」
何かがいる。
今までこの世界に来て色々と戦闘を繰り広げてきた。
盗賊や魔物、騎士団とも戦った。
だが、
これは違う。
同じ事を思っていたのか、蓮花も緊張しているようだ。
「神無月くん―――――」
「あぁ…………やべぇな」
何がいるかは分からない。
だがこのままこの場所で戦闘が始まれば無関係な人達も巻き込んでしまう。
そう思った時、
「〝桜散る散る真夜中に〟」
声が聞こえ反応する前に重圧が強くなった。
「鳴上ッッッ!!」
蓮花が十夜の声に反応した直後、
十夜達が隠れていた森全体に巨大な魔法陣が展開される。
「〝月明かりに照らされた並木道〟」
声は聞こえるも姿が見えない。
森の木々全体が淡い桃色に変化する。
それは彼らの世界の―――――。
「桜?」
蓮花が呟く。
それは実際その通りで深緑の木々は煌びやかなピンク色に変わっていく。
風がそよぎ、桜の花びらが一枚ひらりと舞い散った。
ひらひらと落ちてくる花びらを見つめていると、
「〝はてさて舞い散る花びらが墜ちる先は何処かな〟?」
ピタリ、と桜の花びらは十夜の肩に触れ、
ボゴォォンンン! と至近距離で爆発した。
「神無月くん!?」
「お、俺は大丈夫だから―――――気を付けろ!!」
そう、
桜の花びら一枚であの爆発ならば今二人の頭上から降り注ぐ大量の花びらの威力はどれほどなのか?
「くっ―――――神無月くん動かないで下さい!!」
高速で印を結び指を横一線に引く。
『
彼女が扱う最強の矛にして最硬の盾が二人を守るように長方形の空間を創り出し、
幾度となく爆発が二人を襲う。
ボゴゴッゴゴゴゴゴゴゴガガアガガガッガガガンンンンンッッッ!!
耳元では轟音が炸裂する。
鼓膜が響き三半規管が揺れる。
しばらくすると桜の花びらは全て舞い落ちたのか爆音が止まった。
爆煙が晴れたあと静寂に包まれた森は木々がへし折れ見る影もなかった。
「―――――だい、じょうぶなのか?」
まだ耳鳴りはするが、何とか平衡感覚は保てる。
注意深く辺りを見回し、同時に気配も探る。
しかし誰もいる様子が無く不気味なほど静かだった。
「神無月くん」
蓮花の声が聞こえた。
振り返ると、彼女も耳をやられているらしく顔を歪めている。
「大丈夫か!?」
「あ、まり良くはないですね―――――何とか『空匣』の生成が間に合ったからいいのですが」
かなり無理をしているのか、蓮花の足取りは重い。
「忍びとして五感はかなり鍛えていたのが仇になりました―――――」
確かに忍び―――――くノ一である蓮花は聴力もいい。
あんな爆音が轟いたのだから普通よりもダメージは大きいはずだ。
「でも助かった。すまねぇな―――――何も出来なくて」
「神無月くん…………いえ、気にしてませんよ。それに私一人だったらもっと危なかったかもしれませんし。私も助かりました」
いつもの塩対応ではなく、本心で言ったのは伝わった。
「しっかし」
今のは何だったのだろう?
突然過ぎて理解が追い付いていない。
森を一瞬で桜に、しかも花びらを爆弾に変えるなど普通では考えられない。
「やっぱりこの世界の『魔法』ってやつなのか?」
やはり異世界コエーと思う反面、何か腑に落ちないモノがあった。
それは何かと考えていると、
「十夜殿!! 蓮花殿!! 無事ですかな!! 無事ならば返事をして下され!!」
大声で近付いてくる万里の姿を捉えた。
「耳がキーンって鳴ってるのにアイツの声は響くんだな―――――歩けるか?」
「ええ―――――大丈夫で、す?」
ぐらりと蓮花の身体が傾く。
慌てて十夜は蓮花の手を引っ張り肩を貸すように腕を回す。
「す、すいません」
「いいよ別に。無理すんな」
それだけ言うと十夜はゆっくりと万里の元へと歩いていく。
「お二方共、大丈夫ですかな!?」
「あぁ、ってかもうちょい声のボリューム下げてくれ…………たった今至近距離で爆発を体験して来たところだ」
幸い、二人は大きな怪我はなかった。
一度だけ十夜は爆発を直撃したが、それも身代わり効果なのか傷一つ付いていない。
「すごい爆撃でしたな―――――拙僧達のいた場所にまで聞こえて来たので慌てましたぞ」
「ええ、心配お掛けしました」
蓮花がゆっくりと頭を下げる。
やっと村に近付いたと思えば、謎の襲撃を受け、さすがに朝から体力の消耗が激しい為かそろそろ休まないと身体が保たなかった。
「まぁとりあえず―――――」
後からやって来たダナン達がこちらに気付いて手を振ってやって来る。
考える事は山のようにあったが、今考えなければいけないのは〝これからどうするか〟だった。
「ここが『ウルビナースの村』って事で間違いはなさそうだな」
目下に広がる光景に万里も言葉を飲み込む。
それほど凄惨な光景なのだ。
「ホントにこれで村の人達は無事なのか?」
「ええ、多分ですが―――――人の気配は先ほどまでは感じました」
さっきまで感じていた、というのは先ほどの襲撃前まではという事なのだろう。
万里もその事について興奮したように、
「いやぁ、そう言えば先ほど面白いモノが見れましたな」
「面白いモノ?」
そんな余裕が無かったので何があったのか気になっていると、
「いやぁ、まさか―――――こちらの世界に来ても満開の桜を見れるとは思っておりませんでしたぞ」
そこで先ほど抱いた違和感の正体が分かった。
十夜と蓮花は互いに目を合わせる。
ここは異世界『グランセフィーロ』だ。
もしかしたら似たような花で、名前も似ているかもしれない。
そう思った十夜はダナンに、
「なぁダナンのおっちゃん。桜って知ってる?」
「サク、ラ? 何だいそりゃ―――――というか森が変な色してたんだが一体何があったんだ? 兄ちゃん達大丈夫なのか?」
どうやら十夜と蓮花の予想は当たったようだ。
「どうやら、まだいるみたいですね」
「あぁ」
あの攻撃が始まる前に確かに聞いた謎の〝歌〟。
―――桜散る散る真夜中に
月明かりに照らされた並木道
はてさて舞い散る花びらが墜ちる先は
十夜は拳を握り締める。
そして誰もいなくなった場所を見つめる。
「俺達と同じ―――――異世界からの召喚者、か」
その呟きは風に流される。
そしてもう一つ引っかかりが残った。
先ほどの〝歌声〟―――――以前どこかで聞き覚えがあるような気がしたのだが、十夜はそれがどこでかを思い出せなかった。
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