第49話




 一章『古代遺跡エンシェント・パレス



 『ディアケテル王国』では緊迫した状況が続く一方で、神無月十夜かなづきとおや鳴上蓮花なるかみれんか永城万里えいじょうばんりも同じように緊迫した状況だった。


 「邪魔、すんなァァァッッッ!!」


 十夜の掌打が盗賊の顎に突き刺さる。

 吹き飛んだ盗賊はボーリングの玉のように転がっていく。

 しかし、


 「相手は三人だけで後はジジィやガキがほとんどだ!! 

やっちまえ!!」


 抵抗したのが癪に触ったのか六人ほどの盗賊が一斉に十夜へと向かってくる。


 「だぁぁぁっ!? 鬱陶しい! 鳴上ッ! 万里ッ! 助けて!!」


 思わず同郷者に助けを求める。

 あの戦いを共に切り抜けたのだから戦友ともと呼ぶに相応しい二人はと言うと、


 「今はさすがに無理ですッッッ! 自分で何とかお願いします!!」

 「カカッ! 蓮花殿の言う通りですぞ!! 流石に拙僧らも今は無理ですな!!」


 二人は魔物の群れに絶賛襲撃エンカウント中だった。

 緑色の肌に痩せ細った腰回りほどの背丈の襲撃者、『ゴブリン』が群れを成して蓮花と万里の二人を襲っているのだ。


 「この小鬼共が存外しつこくてな!! 今暫く待ってくれはせぬか!?」


 共闘、と言うわけでは無さそうだがワケあり団体が移動しているのだ。

 彼らにとっては格好の餌食なのだろう。


 「あぁもう面倒臭い!!」


 十夜が軽くバックステップで後ろへ下がるとそのまま爪先で円を描く。


 「全員まとめてかかって来いや!!」


 十夜は両手を前に出し盗賊達に啖呵を切る。

 その様子を見た盗賊達はそれぞれの武器を構えて一人の少年へと襲い掛かる。


 十夜の後ろではゴブリンの群れと戦闘している蓮花と万里の二人も同じように構える。


 目的地である『ウルビナースの村』までもう少しの所で、割とピンチな無法者アウトロー達だった。





 時間がどれほど経ったのか。

 周囲には生き物の気配はもうない。

 十夜は地面に寝転がり荒く息をしていた。


 「お、おれっ、死ぬっ―――――このままっ、死んじゃうぅぅっ」

 「弱音を―――――吐かないでください。私まで心が折れそうになります」


 蓮花も珍しく息を切らしている。

 無理もない。

 朝方から今まで戦闘が続いているのだ。

 そろそろ休息が欲しい。


 「むっ、若いのに何を言っておられる! 拙僧はホレ! まだまだ元気ですぞ!!」


 万里は力こぶを作りフェリスとリューシカをブランコのようにして遊んでいた。

 決して万里を羨ましいとは今後も思う事が無いのだろうが、体力はもう少しあった方がいいと思う二人だった。


 「しかし本当によく襲われるな、今日は特に」


 一行が『ディアケテル王国』を慌てて出てからずいぶんと時間が経ったのだが、やはり異世界ファンタジーなだけあって随分と魔物の種類が見れた。


 初日に『メムの森』で遭遇したブラックハウンドやボアブリッツ、大型の鳥の魔物イーターイーグルやスライムはもちろん、先ほどのゴブリンなんてモノまで出てくるとは思っても見なかった。


 「やっぱ異世界だわ」

 「―――――意味は分かりませんが、なんとなく言いたいことは分かります」


 珍しく突っ込むことも忘れて蓮花が同意する。

 余程疲れが出ているのだろう。

 蓮花は木陰で少し休息を取っていた。


 「ねーちゃん大丈夫か?」


 竜車の男―――――名前はダナンと言うらしいのだが、彼が水を蓮花へと手渡す。

 一言お礼を言うと蓮花は水を口へと含む。


 十夜は改めて鳴上蓮花という少女を見た。

 長い髪を後ろに束ねたうなじからはつぅと汗が流れていた。

 最初に出会った時のブラウンのブレザーは所々汚れており、赤いチェックのスカートもボロボロだった。


 「あの、ジロジロと女性を見るのは如何なものかと思うのですが?」

 「悪い、お互いボロボロだなぁって思ってた」


 十夜も自分の姿を見てみる。

 ここに来たときは学校指定の学ランだった十夜の制服もズタボロになっている。

 ここに来てからの戦闘の激しさが物語っていた。


 「お互いの衣装の問題もありますね。この姿では結構目立ちますし」


 確かに、と思う。

 二人もだが、万里の袈裟姿をも彼らにとっては違和感は無くともこの世界グランセフィーロではかなり目立つ。

 衣装の調達も視野にいれなければならないのだが、目的地でもある『ウルビナースの村』まではまだ距離があるらしい。


 「金はあるが王都で買い物出来なかったのが痛かったな。ここまで忙しいと思わなかったし」


 立て続けの戦闘に三人は元より他の人達の安否も心配だった。

 流れとは言え自分達に着いて来たのは自分達の意思だから覚悟は出来ていると言っていたが、それでも限界はある。


 「十夜殿、蓮花殿! 少しいいですかな!?」


 万里が呼んでいる。

 何事かと思い万里の方へと足を進めると、


 「〝あれ〟を見てくだされ」


 万里が指を指す方を見ると煙が立っていた。

 他も何事かとその煙を見ているとダナンが口を開く。


 「ありゃぁ―――――『!?」


 嫌な予感がする―――――。


 そう思った十夜、蓮花の二人は急いで黒煙が立つ方へと向かった。


 何事も無ければそれでいい。

 微かな希望を抱きながら、妙な胸騒ぎが止まらない十夜は村が無事なことを祈るしかなかった。

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