第48話 エピソードⅡ 『魔導の歌姫』編
序章『王国騎士団集結』
『ディアケテル王国』のとある軍事会議室。
ここでは円卓に五脚の椅子があった。
各椅子には〝五色〟の装飾が施されており、それぞれ青銅、純白、
そして中央には黄金の椅子が置かれている。
「おいおいマジかァ?
〝朱赤の席〟、『王国騎士団』第三師団団長ユリウス・マーベッケンが円卓に足を掛けふんぞり返っていた。
紅蓮のように燃えるうような赤い髪を掻き上げながら鬱陶しそうに空席となった〝青の席〟を見下す。
「そ、そんな事をいったらいけませんよぉユリウス様ぁ」
その後ろには第三師団副団長エレクティアが甘い声で上官を嗜めるが特に気にしてもいない。
そんな彼は
「エスカトーレ団長が可哀想じゃないですかぁ」
「五月蝿いぞエレク。殺されてぇか?」
関係は良好ではない。
しかしそんなユリウスの殺気をエレクティアはうけながす。
「まぁ恐いっ。アタシ泣いちゃう」
これ以上何を言っても無駄だと思ったユリウスは盛大に舌打ちをすると他の席へと目を向ける。
どうやら時間前に来ていたのは自分だけのようで第一、第二、そして第五師団の代表はまだ来ていないようだった。
「こんなに遅いんならもうちっと遅く来れば良かったぜ」
そんな彼のぼやきに、
「何か恐れているのか? 私にはそう思うよユリウス」
二人の背後から声を掛けてきたのは純白の鎧に身を包む銀髪の女性だった。
鎧といっても必要最低限の急所の部分にしかプレートを付けていない軽装備だった。
「シャルマ―――――テメェ来てやがったのか? 国王様が死んでも興味無さそうなのになァ」
〝純白の席〟、『王国騎士団』第五師団団長シャスティエマ・エーレンブルクが副団長の青年を連れ優雅な足取りで席に付く。
「私とて主君と同僚が亡くなったのだ。悲しい気持ちがないわけないだろう?」
しかし言葉とは裏腹にどこか楽しげな声を弾ませる。
妖艶、と言うよりも獲物を見定める狩人のような眼光だった。
「はて? 第一と第二の団長はまだ来ておらぬのか?」
そのシャスティエマの言葉に後ろに控えていた副団長の青年が口を挟む。
「第一師団団長でしたらもう居られます」
その言葉にその場にいた全員が中央の黄金の椅子へ注目する。
先ほどまで誰も居なかったはずの席には男が座っていた。
黄金の鎧を身に纏うその男が放つオーラすら輝いて見えた。
「―――――――これはこれは、第一師団団長殿じゃァないですか」
ユリウスは静かに息を飲む。
口を開くだけでも相当な重圧が空間に乗し掛かる。
「口上の世辞はよい。これで全騎士団が揃ったな」
「少しお待ちを。第二師団がまだ」
シャスティエマが口を開く。
しかしその質問は想定内だったのか第一師団団長はただ一言「よい」とだけ告げた。
「元よりあの男は自由な奴だ。誰にも縛れんし、我は彼奴を縛るつもりもない。」
その一言でその場の全員が押し黙る。
内心は面白くないのか、ユリウスは円卓の下で拳を握り締める。
「(別にエスカトーレのオッサンを擁護するワケじゃねェが、面白くねぇなァ)」
どういうわけか、第一師団団長であるこの男は第二師団の団長を気に入っている。
もちろん『王国騎士団』の数字は力は関係ない。
それぞれ数字には意味があり例えばだが、第四師団は主に対敵国用兵器の開発や研究を担当している。
そんな感じで他にもユリウスの騎士団にもシャスティエマの騎士団にもそれぞれ役割はある。
しかし、第一、第二師団は違う。
第二師団は王族の身辺警護をメインに行う。
この辺りは実力主義が当然で、もちろんユリウスやシャスティエマも狙っているポジションだった。
その二人だけでなく、その席に一番近かったのはエスカトーレだった。
そして、第一師団―――――これは最早『別格』だった。
歴代でもこの黄金の騎士に選ばれるのは実力、血筋、そして
〝黄金の騎士〟、第一師団団長ヴィンセント・アレクティオス。
輝く金髪に、全てを許す器量と全て破壊する残忍さを兼ね備えたヴィンセントは騎士の中の騎士として君臨していた。
「ですがヴィンセント殿? 『王国騎士団』として国に災事が起きた時は全員集まるというのは暗黙では? 第二師団の団長だけ特別扱いというのは」
だが、シャスティエマの言葉は最後まで続かない。
途中で話を途切れさせた者がいた。
「あっ、ほらししょー。みんな集まってるよ?」
何もない真っ暗な空間からマレウスが明るい声で部屋に入って来た。
そして、彼女に続き後ろからは白髪隻眼の男も現れた。
「おや、遅くなってすまんね」
特に悪びれもしない彼に対して最初に嚙みついたのはユリウスだった。
「オイオイオイオイ、何だお前はァ? 遅れて来て謝罪もないのか、第二師団団長サマはよォ?」
椅子に座ったまま視線だけを黒の騎士に向ける。
しかし、年の差もあるのだろうが特に気にする事なく両手を広げるようなポーズを取る。
「遅れるも何も―――――第二師団として王族の警護、特に今一番精神的に参っている第一王女のケアをしていたんだが?」
当然のように言う彼に対し、二の次が言えなくなったユリウスは舌打ちをする。
そこで余計な口を挟まなかったシャスティエマは何も言わない。
「そうか、大義であった」
ヴィンセントがそれだけ言うと特に反応を示さないまま〝漆黒の席〟へと着く。
その恰好は団長、副団長と共にラフな格好だった。
鎧は着ておらず、マレウスは水着のような黒い薄着にショートパンツを着ている。
団長に関しては黒いロングコート、そして中にはよれよれのカッターシャツを着用している。
「さて、これで全員だな」
今、円卓に『王国騎士団』最高戦力である四人の団長と四人の副団長が揃った。
「では議題だが、この『ディアケテル王国』のルイマルス・ディア・ケテル国王の崩御。及び第四師団団長エスカトーレ・マグィナツの逝去についてだが、簡単に言うと賊の正体は不明―――――今のところ有力な情報では異世界からの『迷い人』だという事らしいが?」
まず最初に答えたのはユリウスだ。
「えぇそうっスね。ちらりと門番に聞いたんすけど、初めはデュナミスが連れて来た罪人が二人いたって聞きました。まぁ風貌から『異世界人』だとは聞いてましたが、まさかエスカトーレのオッサンがやられるとは思わなかったっスね」
「では次は私が。大空洞に潜入した『迷い人』はエスカトーレ団長と戦闘。そして激しい戦闘が行われたようで空洞内で亀裂か生じた事により地下に封じられていた魔物が押し寄せていると報告を受けております」
続いてシャスティエマが報告する。
「なるほど。では『愚者の迷宮』内に現れた封印されし魔物は我ら第一師団が対応しよう。我の力で魔物共を蹂躙してやる―――第二師団はそのまま王族を守護せよ」
「異論はない」
「第三師団、第五師団は情報を集めつつ『迷い人』を探し出せ。連れてくるのが一番だが、抵抗するようなら極刑に処して構わん」
「うーす」
「畏まりました」
ユリウス、シャスティエマの二人も同じように応える。
「――――――――――――――――――」
マレウスは何か言いたそうだったが口を挟まないようにした。
あまり副団長―――――と言うよりも自分はここにいていい立場ではないのは重々承知している。
だからこの場ではあえて何も言わないようにしている。
それが例え重要な話だったとしても自分が師と慕う者以外とは極力喋りたくないのだ。
「まぁいい―――――近隣の村や町に聞き込みをしながら罪人を手配せよ。『ディアケテル王国』や『王国騎士団』を敵に回したことを後悔させよ」
第一師団団長、ヴィンセントが口上を上げる。
その言葉に全員が立ち上がり各々動き出す事にした。
「マレウス」
「はい?」
第二師団団長が声を掛ける。
その表情はまるで悪戯が成功した時のように無邪気な表情だった。
「慌てる必要はない。まぁ、他の騎士団に手柄はくれてやろう―――手柄をたてれるようだったらな」
それだけ言うと二人は軍事会議室を後にした。
「(もし、俺が思っていた通りの馬鹿弟子ならば次に向かうとすれば『ウルビナースの村』か―――――少しこちらでも気になる事があるし、まだ会うのは先になるか)」
残念と言えば残念だった。
しかし彼―――――
次に会える時を楽しみにしながら彼は心配だった第一王女の部屋へと向かう事にした。
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