第15話
酒場での乱闘騒ぎを経てとにかく三人は今後どうするかの話し合いを歩きながら話し合っていた。
とにかく寝床を確保しなければならないので十夜が言っていた『魔力結晶』を売る事が出来る『武具屋』、もしくは『鍛冶屋』を探していた時だった。
「そう言えば鳴上さんや、貴女様の武器の補充などは大丈夫なんでしょうか? 結構『メムの森』で消費してたと思うんですが?」
「私ですか? そうですね―――――確かに消費が激しいですし、持っていた小太刀も
本人に確認はしていないが、あの動き方や持っている武器などを見てみると彼女は忍者、もしくはくノ一というモノで間違いはないのだろう。
現代社会において忍者って、と思っていたのだがかなりの手練れだというのはもう嫌と言うほど理解が出来た。
「まぁ正直、この世界で忍具を調達出来るとは思ってませんし―――――無くなっても一応はなんとかなるんですけどね」
そう言えば、と十夜は『メムの森』での出来事を思い出す。
オーガとの戦闘時、彼女は木に巻き付いていた蔦を使ってオーガを捕縛していたように見えた。
あの時は必死だったのでそこまで考えは回らなかったが、彼女の言う通り武具はなくとも何とかやっていけるのだろう。
そう思っていた。
「蓮花殿もそうでしたがやはり十夜殿の動きも中々面白かったですな!」
万里が笑いながら十夜を見た。
その手にはいつの間にかその辺りの屋台で購入した串焼きを頬張っていたのだ。
「おいコラ生臭坊主。何一人で満喫してんの?」
「いいではないか! 観光と言えば買い食いでしょうに!」
一番の大人が一番駄目だった。
全く、と呆れ果てていた十夜だったがそんな彼を見て蓮花は「人の事言えませんよね?」と冷たい声で突っ込まれた。
先ほどの酒場での乱闘騒ぎの後、守衛が来るとか言っていたので逃げるように慌てて飛び出したのだが、あろう事か十夜と万里は「戦利品♪ 戦利品♪」など言って気絶していた男達から小銭を巻き上げていた。
十夜もたまに喧嘩を売って来た不良などから同じ事をした事はあったが、まさか異世界にまで来て同じ事をするとは思っていなかった。
というか出家した坊主がそんな事をしていいのだろうか?
「まぁほれ、拙僧は破門された身ですからな!」
カカッ! と笑う万里には全く悪気というモノが無かった。
そんなこんなで無駄な時間を過ごしてしまった一行はとにかくここから本格的に動く事にした。
適当な店に入って『魔力結晶』を売り捌き十分な資金を手に入れた三人は取り合えずその硬貨を山分けする事にした。
何気に一番の値段が付いたのはオーガが遺した『魔力結晶』で、それを持って行った時には大層驚かれたのだが。
ちなみに、その時の蓮花の表情も何とも言えない風だった。
何気にオーガが遺した結晶は自分が貰おうと思ってたと言っていたぐらいだったのだ。
「では私は『王立図書館』へ向かいます。一応今夜宿泊する宿屋はこの『ブレッドの宿屋』ですからね」
蓮花は念を押して二人に言った。
少し不安だったのは特に方向音痴な万里に対してだった。
「任せなさい。流石に拙僧もここまで来れば迷わんよ」
顔を真っ赤にした破戒僧は足元が覚束ない。
非常に不安を残しつつ、今度は十夜へ向き直る。
「ではフェリスとリューシカの件はお願いします。私も少し嫌な予感がします」
「あぁ、そっちは任せろ。悪いが情報は鳴上に頼むわ」
そう言って三人はそれぞれ解散する事にした。
十夜はとにかく街を見回る様に歩く。
道中、万里が食べていた串焼きを見つけ購入し食べながら歩いていると、妙な〝臭い〟が鼻に付いた。
甘いような、それでいてアルコールのように身体が少しフワフワする妙な感覚。
その香りは路地裏から漂ってきた。
「このニオイ―――――まさか」
十夜は静かに路地裏を進む。
薄暗い道は不気味さも相まって不快感が強く出ていた。
しばらくして、その臭いが強くなってくる。
思わず鼻を押さえた十夜はゆっくりとその場所を覗き見る。
そこには、男がいた。
決して品があるような男ではなく、どう見てもチンピラ風な男の足元には這いつくばる様に女性がしがみ付いている。
女性は男と違いどこか品のある服装だったが、所々がボロボロで埃まみれだった。
「ねぇっ、お願い―――――お願いしますッ」
女性は懇願するように男にしがみ付いている。
その頬は痩せこけ頬骨が浮き出るほどだった。
彼女の症状は十夜が自分の世界でもたまに見る光景でもある。
「(この独特な香り、それにあの禁断症状に似たモノ―――――
女性の目は虚ろだ。
元が美人だったのだろうが、面影は一切ない。
そんなやり取りを覗き見していると、
「兄ちゃん、好奇心は命取りだぜ!!」
ゴッ! と十夜の背後から何者かに殴られた。
ふらりと倒れると短い悲鳴が聞こえた。
「おい! 何してんだ!! 見られてたぞ!!」
十夜を殴りつけた男が声を荒げる。
そんな彼の怒声にチンピラの男は「す、すまねぇ」とおどけていた。
「ったく、上手くしろって言っただろうが!!」
男は十夜の頭を踏みつける。
反応は全くなかった。
「なんだ? 死んじまったか? まぁいいや。それよりおい! 金は持って来たんだろうな!?」
男が女性に近付くと乱暴に女性の髪を掴んだ。
短い悲鳴を上げるが男は離す気配はない。
「ったく、脳みそ溶けてんのか? アァ?」
「仕方がねーよ。こいつはもうクスリで頭がイカレちまってんだ」
不穏な会話。
いいように扱われている女性は何も言わなかった。
「もうコイツも限界でしょうし、そろそろ売り飛ばそうと思ってんだけどね」
「まぁ死ぬまで使い潰しても問題ねーだろ? それより最後にコイツで思い切り遊ばね?」
不快な笑い声が路地裏に響く。
女性は涙だけでなく口元からはだらしなく涎を垂らしている。
そして、
「はぁ、まさか
彼らの背後から声がした。
慌てて振り返るとそこには先ほど男が殴り倒した
少年の身体には傷は無く、平然と立っている。
「あ? お前何で―――――」
確かに殴り倒したはずだった。
その手には殴った時の感触がまだ残っている。
なのに、
何故?
男達が戸惑っていると、十夜は不敵に笑う。
「俺がどうした?」
足元はしっかりとしており、殴られた直後とは思えない足取りだった。
十夜は恐れる事無く散歩でもするかのように軽快に近付いていく。
「お前、なんなんだよ?」
手にはナイフが握られている。
だが十夜に恐怖心はない。
今までナイフを持った不良にも絡まれたことはある。
なんならこの世界に来て間もなく盗賊――――は蓮花が撃退したが、それでもブラックハウンドや他の魔物やオーガなんかにも出会い戦ったのだ。
今さらナイフの一本では驚かないし尻込みしない。
いや、
そもそも神無月十夜という少年はこの手のタイプを一番に嫌う。
影が蠢き空気がねっとりと冷え込む。
「お前ら、そんなにクスリがいいのか?」
今まで、この世界に来て初めてと言わんばかりに十夜の口の端がつり上がる。
その笑みはオーガよりも凶暴で凶悪だった。
「お望みならテメェらに永遠の〝
路地裏に悲鳴が響き渡る。
しかしその叫びは誰の耳にも届かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます