第12話
「何をしていたんですか?」
蓮花が遅れて来た十夜に不満を漏らした。
「悪い悪い。ちょっとな」
何故か理由を説明しない十夜はニコニコして正直不気味だった。
しかし、何をしていたのかを言わないという事は何かあったのか、それとも報告するほどの事でもなかったのだろうと蓮花は特に気にする事はなかった。
ただ一人、永城万里だけが少し不思議な表情をして十夜を見つめていた。
「あんだよ?」
「いや何」
言っていいものかどうかを悩んでいたのだが、どうしても気になった万里は口を開く。
「十夜殿は中々な業を背負っておられるな」
それは神無月十夜が自らの過ちで背負った『呪い』の事を指していると理解する。
「そっか、アンタは坊さんだっけ? やっぱ見えんの?」
特に驚く事はなく十夜が淡々と言った。
その返しに万里は意外といった表情をした。
「まぁ、見えるというよりも〝感じる〟といった方が正しいのかもしれませんな。拙僧は一応坊主として修業はしておったが法力の方はからっきし駄目だったんでな」
カカッ、と笑う万里はそのまま気にせず先を歩く。
そんな彼の様子を少し疑いつつも十夜もそれに続く。
体感で十五分ほど歩いた後、三人の視線の先には光が差し込んでいた。
「見えました。出口ですよ」
先頭を歩いていた蓮花が指した方向には見慣れた平原が広がっている。
どうやら最初に森へと入った場所とはズレているが、それでも王国の城壁が聳え立っているのを見るにそこまで離れていない事が分かった。
「もう森はいいや」
「カカッ、同感ですぞ」
そんな会話もさることながら、二人の表情はげっそりとしており顔には死相が浮かんでいた。
「なるほど、アレが
万里が呟く。
彼の話によると初めて遭遇した魔物はオーガだったらしく、ブラックハウンドや鳥や猪百足の魔物もいたのは想定外だったらしい。
何となくその気持ちも分からなくはないなぁと思いつつ十夜は草原に寝転がりたい欲望を抑えつつも辺りを見回した。
目的はあの竜車の男で顛末を伝えたかったのだがその場には居なかった。
「おかしいですね? この辺りだったと思うんですが」
蓮花も辺りを見回すが見知った顔はない。
流石におかしいと思ったが、やはり自分達を棄てて何処かへ行ってしまったという線も捨てきれないでいた。
「(邪推し過ぎ、ですかね?)」
ここに来て良識にある人物に出会った事だったのでやはりそんなものかと思っていた矢先だった。
「おーい! 兄ちゃん達ーッッッ!!」
遠くの方から自分達を呼ぶ声がした。
目を凝らすが十夜と万里には見えなかった。
「あ、おじ様ですね」
あっけらかんと言う蓮花は手を望遠鏡のように丸めて見ていた。
やはり忍者となると視力も規格外なのだろうと思っていると、やはり蓮花の言う通り近付いてきて分かった事なのだが竜車で近付いてくるのはあの男だった。
「おぉっ! やっと出てきたんかね!? 無事お連れの方にも会えて良かった良かった!」
男は笑顔で言った。
蓮花が頭を下げ、
「心配お掛けしました。―――――そう言えばあの二人は?」
蓮花は見回すが二人の姿が見えなかった。
その言葉にハッとした男は慌て始める。
「そうだ! アンタ達が『メムの森』に入ってすぐに王国の兵士が来てあの二人を連れてったんだよ! 何でもお茶を欲しがる貴族が多いから今回は特別だって。あの子達も最後まで兄ちゃん達を待ってたんだが半ば強制的だったもんで…………すまねぇ」
男が頭を下げる。
蓮花が手を降り「大丈夫です」と言っていたが、十夜は少し肩透かしを食らった。
これで王国に入る手懸かりがなくなったと思っていると、
「あ、そう言えばこれアンタらに渡しておくよ。あの後もしかしてと思って探してたら荷物の中に紛れ込んでたんだ」
竜車の男が手渡してきたのは現代風に言うと葉書ほどの大きさの物で丁寧な額に作りこまれたそれは手形のようにも見えた。
「これが通行証だ。これで『ディアケテル王国』へ入れるよ」
うん、
まぁこれもRPGならではのあるあるだなとそんな事を思っていた。
もちろんこれが分かるのは十夜だけで、蓮花と万里の二人は疲れた表情をしていた。
その気持ちは分かるぞ、と十夜も内心は賛同していた。
だが、これで三人の次なる目的地でもある『ディアケテル王国』へと入る事が出来るようになった。
ここまで来るのにもう何日もかかったという感覚だったが、まだこれは始まったばかりだった。
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