第11話
霧散したオーガが残したのはブラックハウンドや他の魔物が残した物と少し違い、深い緑色の結晶だった。
それを拾い上げ太陽に透かしてみる。
キラキラと光る様は宝石の輝きと同等だった。
「綺麗ですね」
思わず蓮花が呟く。
そんなところはやはり女の子なのだなぁと思いつつ虚無僧の男、永城万里と向き合い軽く自己紹介を済ませていた。
「で? 永城――――さんでいいのか? はやっぱ気付いたらこの森にいたのか?」
「カカッ、万里で良いぞ十夜殿。まぁその通りでな、気が付けば森に居ったんだが道に迷ってな…………一度は森の外には出れたのだが気が付けばまた森に入ってしもうたのよ」
本人の話を要約すると、森の外へ出て例の『ロードランナー』の荷車に乗せてもらったのは良いのだがこの『メムの森』に再び入り込み道に迷ったらしい。
後の顛末は十夜達が知っての通りだった。
「ってかあの竜車? のおっちゃんに言われなかったか? こっちは危ないって…………」
十夜の指摘に万里はカカッと笑うだけだった。
どうやら本人は極度の方向音痴なのだろう。
今の会話で何となく理解が出来た。
「まぁ御二方に出会えて良かったぞ。如何せんここは聞けば〝異世界〟という右も左も前も後ろも分からぬ摩訶不思議な世界―――――拙僧も元の世界に戻りたいと思っておってな。共に行かせて貰えれば
その提案に十夜と蓮花の二人は目を合わせた。
別に異論はなかった。
この『
助かるのだが、二人が思っている事は胡散臭いのだ。
元の世界でも虚無僧はいるにはいるが、ここまで胡散臭い坊主はいない。
そんな事を思っていると、深緑の宝石を懐にちゃっかりと入れていた蓮花がハッキリと言った。
「正直に言いますと神無月くんも私も先ほど出会ったばかりでお互いそこまで信用はしていません。そして、私達は貴方を完全に信用していませんし、それは貴方も同じでしょう?」
かなりキツイ言い方だったが、それは本人も理解していたらしく「カカッ!」と笑う。
「よいよい。出会ったばかりで互いが互いに背中を完全に任せることが出来ん。だが、それでいいと思うぞ」
万里は立ち上がり森の木々の隙間から射し込む光に手を当てる。
万里の表情は何を思っているのかその傷だらけの顔に浮かぶ表情が読めなかった。
「互いを信用すれば連携も可能なのだろう。しかし、拙僧らは互いを信用していないからこそ自分の出来る事を理解していたから自然と動けていたのかもしれんしな」
破戒僧、と自身で言っていたが人に説法を説くのはやはり坊主の所以なのだろう。
とにかくこの永城万里という男も只者ではないと言う事は分かった。
「ま、俺はそれでもいいや―――――それより、本当に通行証の事は知らねぇのか?」
「ふむ、如何せん海外の方に話し掛けられるのは恥ずかしながら慣れておらんでな…………拙僧もあまり話を聞かずここまで来たのよ」
困った事になった。
これでは王国どころかフェリスやリューシカとの約束も守れなくなってくる。
そう思っていた時、
「もしかしたらおじ様が荷車の中に落ちている事に気付いていないだけかもしれません―――――もう一度森の外に出ませんか?」
蓮花の提案に十夜と万里の二人は頷いた。
少し休憩が出来た事もあり体力が回復した三人は元の道を戻る事にした。
蓮花が先頭を歩き、続いて万里が続く。
最後に十夜が立ち上がると彼の横をぶよぶよと蠢く姿を捉える。
「―――――こいつは」
そこにいたのはまさかRPGの序盤に出てくる魔物の一匹、スライムだった。
「うへぇ、こいつキライだ」
数十分前にはまさかの死にかける事になるとは夢にも思わなかった十夜だったのだが、しばらくその軟体の魔物の姿を見ていると〝ある事〟を思いついた。
「―――――ちょっと利用させてもらうぞ」
十夜のその笑みは表情の無いはずのスライムが震え上がるほどの凶悪さを秘めていた。
その背後、十夜が写し出す〝影〟がうぞうぞと蠢動していた。
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