第2話① 出逢い
崖の上に突風が吹いた。少女の髪に結ばれていたリボンが解け、俺の方に飛んでくる。
捕まえようと思わず手を出したその時、少女のカバンから白い塊が飛び出し、一瞬でこちらに飛んできた。
リボンを掠め取って行く、白い塊。
間近で見たそれは、竜だった。
陶器の様に白く艷やかな身体に、宝石の様にきらめく翡翠色の目をした、首の長い美しい翼竜。
竜は、俺を睨みつける様に見ていたが
、ふいっと向きを変えると、少女の元へと戻っていった。竜は少女の首に巻き付く様に掴まると、リボンをそっと少女に返した。
「駄目じゃない、ノア、出てきてしまっては。でも、ありがとう。」
頭を撫でられた竜は、嬉しそうに目を閉じている。
しかし、少しして少女の手が止まる。何か思い出したように顔を上げた。俺と目が合う。少女の顔色が変わる。ヤバい、と。
「…えっと、その白いやつって…。」
「…猫です…。」
「…えっ?」
「猫です!白猫です!」
それは無理がある!!
思わず、心の中でツッコんでしまった。
突然、世にも珍しい生き物を見て気が動転していたが、ちょっと落ち着こう。相手は子どもだ。
空気に耐え兼ねて声を掛けたのだが、失敗だったようだ。少女は竜を隠すように抱き、警戒心を露わにしている。
別に竜だってことを追求したいわけでもないし…。
「…そっか、猫だったか。名前はなんていうの?」
「…ノア…。」
「そっか、ノアか。」
少女は、少し顔を上げ、こちらを見てくれた。改めて見ると白い肌で、顔立ちが整っている。お人形みたいなって言うのはこんな感じかな。
「俺の名前は、シン。君の名前は?」
「…私は、リルと、いいます」
緊張が解れてきたようだ。こちらの質問にも答えてくれている。だがしかし、ここで問題が発生した。
何を質問しようかなんて考えずに話していた…。
しばし沈黙が流れる。
「…えっと、ここには何をしにきたの?」
「…。」
少女の顔が曇った気がした。
「…“とある場所”を、探しに…」
「…“とある場所”?」
妙な間と言い方から、リルが“とある場所”にただならぬ思いを持っていると感じ取れた。
“とある場所”って、何処だ?
「お嬢様、探しましたよ。」
「うわあ!」
突然、背後から声がして驚いた。慌てて振り返るとロングコートを着て、頭に布を巻いた人物が立っていた。港でリルと一緒にいた従者だ。
ロングコートの襟はしっかりと立てられていて口元まで隠されており、布は目深に被っているので、顔はほぼ隠されている。しかし、隙間から見えた目からは、鋭い視線を俺に放っていた。
性別ははっきりとわからないが、身長が俺より少し低いのと、さっきの声色から、女性かと思われる。
「ごめんなさい、ラウル。あまりに景色がきれいだったから、思わず見に来てしまったの。」
「それはよろしいのですが、一言お声かけ下さい。それよりも、港の方に奴らのものらしき船を見つけました。」
「えっ!やはり、追って来ていたのね。」
「急いで移動しましょう。」
リルたちはくるりと向きを変え慌てて、
歩き出した。歩きながらリルは、少し振り向いて、こちらに軽く会釈をしていった。
一人になった俺は、しばらく呆けて立っていた。
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