<第八話>魔王討伐
魔王討伐作戦を始めて三十年が経過した。
勇者は五十五歳を迎える。
残念ながら、腰痛はまだ治っていない。
三十年間に渡る魔王討伐作戦がもうすぐ完結しようとしている。
魔王族の繁殖期に合わせて、睡眠薬入りの食事とアルコールを大量に提供した。
つまり、魔王族には酒池肉林の大宴会をやってもらうのだ。
そして、大宴会の後には長い眠りについてもらう。
食事の提供から二十四時間後。
全ての魔王族が眠りについたことを確認した後、最終作戦を決行した。
魔王族のナワバリに沿って作った道には高い柵が作られている。
魔王族が眠っている間に、ナワバリ全体を覆う大規模な“檻”を作り上げた。
オートバリアーシステム。
物理的に取り囲む檻とは異なり、センサーに反応した時だけ自動で魔法障壁が発現する装置。
簡単にいうなら、透明な大きな鳥籠のようなもの。
魔王族のナワバリに沿って立てられた大きな柵には1メートル間隔でセンサーを設置している。
センサーは上空へ向けられており、鳥籠全体が円錐のような形になる。
魔法障壁は物理攻撃にのみ反応する。
魔王族自体が飛行してきた場合や、大木や岩を投げつけた場合、全て魔法障壁が跳ね返す。
魔王族が怪我をしないよう物理攻撃を反射させるのではなく、衝撃を吸収させるように工夫されている。
例えば岩石を投げつけた場合、魔法障壁によって威力が吸収されて真下にボテッと落ちる。
魔王族の魔法攻撃はスルーさせることにした。
人間相手だと魔法攻撃はそれなりの脅威だが、上空に魔法を照射したとしても大した影響はない。
魔王族のストレス発散の意味も含めて、魔法は好きなだけ照射させれば良い。
魔族の生態を調べ初めて三十年。
人間には知恵がある。
三十年あればこれくらいの対策もできる。
オートバリアーシステム作動後も、魔王及び魔王族は特に暴れることはなかった。
ナワバリの一回り外側から柵を作っていて高さも十分にある。
魔法障壁に激突してもショックは全て吸収されるので怪我をすることも無い。
睡眠薬無しの食事は毎日提供している。
もはや魔王族にとって何一つ不満はないのだ。
オートバリアーシステムのおかげで、人間もより安全に食事を提供できるようになった。
人間との交流が難しい他の種族も、魔王族と同様にオートバリアーシステムで閉じ込めた。
これで、人間と仲良く交流できる種族は共存共栄の道を歩み、交流が難しい
種族はバリアーで閉じ込めて食事を与える仕組みが完成した。
魔族を一匹も殺すことなく、人間も誰一人血を流すことなく魔族からの脅威を完全に封じ込めることができたのだ。
勇者は、魔王討伐が成功したことを宣言した。
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