<第二話>治らぬ腰痛

勇者20歳。


勇者が腰痛を患って一年が経った。


あらゆる手を尽くしたが、腰痛はまだ治らない。


どういうわけか、腰痛には回復魔法が全く効かないのだ。


1ヶ月ほど安静にしていると、腰の具合は回復して動けるようになる。


しかし、回復したと思って訓練を再開すると、またすぐに腰痛が再発してしまう。


訓練が出来ないので日々の運動量が落ちてしまい足腰の筋肉が少しずつ低下していく。


1年前に新調した剣は、もはや振ることが出来ないほどに重く感じる。




回復と再発を何度か繰り返していくうちに、勇者には“諦め“の感情が芽生えるようになってきた。


どんなに手を尽くしても完全に回復する方法が見つかならい。


日に日に筋力は低下していき、剣を振ることもままならない。


踏ん張ることができないので、使用した時の反動が大きい攻撃魔法も使えない。


ないないだらけだ。


八方塞がりの状況の中で、もう【魔王討伐】なんて不可能なんだと思うようになっていた。




全てを諦めかけていた頃、王国の偵察部隊から新たな報告を受けた。


今年に入ってから魔族の動きが活発になり、人間界の被害が拡大傾向にあるというのだ。




魔族は森に住んでいる。


森に近い村では、日々魔族の襲撃に怯えながら生活をしている。


そして、年々魔族による被害が拡大しつつあり、家畜や農作物だけではなく人間も被害を受けるようになっているとのこと。


王城にいるとついつい平和な気持ちに支配される。


辺境の村は、日々戦いの最前線なのだ。


王城にいると忘れてしまう大切な情報。


すぐにでも現場に駆けつけたいが、体がいうことを聞いてくれない。


「もどかしい!」


『勇者』を名乗りながら、勇者らしいことが何も出来ない。


指をくわえたまま、村が被害にあう報告を聞き続けることしか出来ない。


動けないストレス、救援に行けないストレス、一向に腰痛が治らないストレス。


勇者のメンタルはじわじわと削られていった。




勇者を焦らせるもう一つの原因は、『勇者』の後任が決まらないことだった。


腰痛を患ってから一年が経過した頃。


後任が決まり次第『勇者』の称号を返上することを国王に伝えていた。


このまま無為に時間を過ごすことなんて出来ないからだ。


しかし、悲しいことに次期「勇者候補」すら存在しないらしい。


腰痛で動けない体であっても、魔王討伐は勇者の任務であった。




体は動かせないけど魔王を討伐しなくてはならない。


こんな矛盾した命題に頭を悩ませ続けた。


そして、ある日、唐突に考えがまとまる。




「リモートワークで魔王を討伐する!」




勇者は、城に居ながら魔王を討伐することを決意した。

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