第四十五話『炎の龍』
「なんだ……? 一体、何が起こって……?」
ノワールと戦いながら、レグルスは現状の把握ができなかった。
レグルスがノワールと戦いの中、視界に映るアタラクシアの蹂躙の光景に、彼は目を見開いて驚愕していた。
あれだけ大勢集めてた傭兵達、人を殺すことを生業とした魔石使いまで用意したというのに、その人間達を跡形もなく消し去ったアタラクシアの異質さにレグルスは信じられないモノを見ているような気さえした。
「よそ見をしている暇、あるのか?」
「くっ――‼」
ノワールがその場で剣を振るう。レグルスと彼の距離は十歩分ほど離れている。本来なら剣を振ったところで、意味のない動作だった。
しかしノワールの剣――フラマ・フラムが振られた時、それと同時に彼の剣から炎の刃がレグルスに飛翔した。
身体を焼き切る炎の刃をレグルスが咄嗟に右に跳んで回避する。
すかさずノワールに向けてレグルスが風の魔法を詠唱して風の刃を放つが、それすらも彼は剣を振るうだけで消し去っていた。
「魔法はまだ撃てるみたいだな。もう二十回以上使っているのにまだ使えるとは、正直驚いてる」
明らかな余裕を見せるノワールに、レグルスが顔を歪める。
負けるはずがないと確信していた。ただの魔石使いなら、レグルスが持つ大量の魔法石を以てすれば負けるという発想すらでない。
しかしノワールの持つ魔石兵装という異常な武器が、状況を大きく変えてしまった。
撃たれた魔法を打ち消すことのできる炎を自由自在に出せる異質な武器が、目の前に存在するなどレグルスには未だに信じることができなかった。
剣の実力も、数回の打ち合いで理解させられた。自分は、ノワールという男に剣で勝つことができないと。
振るった剣を全て防ぎ、逸らされてノワールに対応されてしまい。レグルスの剣が当たらないと察するのに時間は掛からなかった。
だからこそ、数で勝つべく魔法を際限なく行使しているのにも関わらず、それも防がれては勝つ為の手段がない。
レグルスがノワールと戦う最中で、傭兵達がセリカを殺すことを予想していたのに、それもアタラクシアによって叶わない望みとなってしまった。
『風よ――我は命ずる、集いし風に、全てを撃ち払え、暴風の嵐をッ!』
故に、レグルスは更なる魔法の行使を選択した、
自身が放てる最大級の魔法。第四魔法を。
風の暴風を生み出し、敵を殲滅する第四魔法。これを以て、ノワールとその後方にいるアタラクシア、セリカをまとめて葬る為に。
「建物ごと、俺達まとめて倒そうって考えか」
対して、ノワールはレグルスの詠唱を聞いて、発動される魔法をすぐに察知した。
確かにレグルスの放つ魔法を持ってすれば、通常ならノワール達を葬ることのできる威力があるだろう。
「ノワール、私が手伝ってあげましょうか?」
「言ってろ。俺の仕事だ」
「あらあら、つれないわね」
小馬鹿にしたような微笑みを作るアタラクシアに、ノワールが不満げに鼻を鳴らす。
レグルスから魔法が放たれるのを見届けながら、ノワールは両手に構える双剣を上段に構えた。
「シアも終わったみたいだ。なら、俺も終わらせよう」
そう言って、ノワールの持つ双剣に炎が纏う。
レグルスの魔法に対抗する為に、ノワールが剣に大きな炎を纏わせた。
「これで! 終わりにしてやるッ!」
レグルスの叫びと共に、彼の手から暴風が放たれた。
風の渦が、周りを激しく破壊しながらノワール達に向けて飛んでいく。
飲み込まれれば、間違いなく重傷か死を予想させる風の渦にノワールは冷静に向かい合っていた。
「魔力、解放」
小さく、ノワールが呟いた。
その声と共に、ノワールが双剣を振るう。
そして、ノワールの両手から双剣が振るわれた時、剣に纏っていた炎が形を作って、飛翔した。
まるで龍のような形を作り、風の渦に立ち向かっていく。
炎の龍と風の渦。どちらが競り勝つかと思った時、即座に風の渦は炎の龍に飲み込まれていた。
風の力を得て、炎の龍が更に勢いを増して、レグルスに飛翔する。
「なっ! 俺の魔法がッ――‼」
そうレグルスが叫んだ瞬間、炎の龍が彼を飲み込んでいた。
レグルスの叫びすら、炎の轟音でかき消される。
そして炎の龍がレグルスを飲み込み、しばらくして霧散していくと――そこには焼かれた部屋の跡しか残っていなかった。
この場に大勢いた人間が消え、そして残ったのはノワール達三人だけとなっていた。
「終わったみたいね。さて、帰りましょうか」
ノワールがレグルスを倒したのを見て、アタラクシアがそう告げる。
ノワールはその言葉に小さく頷く。手に握っていた双剣から魔法石を取り外すと、綺麗な深紅の剣は古びた剣へと戻っていた。
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