第四十二話『魔石兵装』





 古びた短剣。それは見るからに錆びついた剣だった。

 ノワールはそれを右手で握り、胸の前で掲げていた。




「はっ! なにが出てくるかと思えば、ゴミみたいな剣かよ? そんなもんで何ができるって?」

「知るわけがないだろうな。これを知る人間なんて、ロクな人間じゃない」




 失笑するレグルスに、ノワールが左手で懐から何かを取り出す。

 ノワールが取り出したのは、紅い宝石だった。十字を模った手の平に乗る程度の大きさの鮮烈なまでに、宝石が紅く綺麗に美しく輝く。

 その曇ることのないような輝きを見せる宝石に、レグルスは眉を顰めた。




「なんだ……その魔法石は?」




 魔法石というモノは、通常は球体の形を模っている。

 レグルスがノワールの持つ物を宝石と一瞬だけ思ったが、すぐにそれが魔法石だと判断した。

 魔法石は、独特の輝きを見せる。その輝きを見て、レグルスは怪訝な表情を見せていた。




「これは欠片だ。この魔法石は、この剣を以て、その形を完成させる」




 ノワールが左手に持つ魔法石を、右手の古びた剣に近づける。

 古びた剣の柄。そこには何かを嵌めるような窪みがあった。十字に窪んだ、小さな穴にノワールが左手の宝石を嵌め込む。




「圧倒的な力を見せよう。第七魔石の力を」




 その瞬間、古びた剣が紅い炎に包まれていた。

 古びた剣が炎に包まれ、その姿を変える。

 ノワールが構える。燃える剣を握る右手を前に、そして左手は何かを握るようにして、構えた。

 燃える剣の炎が、ノワールの身体を伝って左手に伸びていく。

 そうしてノワールの左手まで伸びた炎は、彼の手で細く伸びていた。まるで何かを作るように、炎が存在しないモノを生み出す。

 ノワールの両手から燃える炎が消える。そしてそこから姿を現したのは――深紅の二振りの剣だった。




「魔石兵装、フラマ・フラム。第七魔石の力を以て、この場に顕現した」

「魔石兵装……? はっ……!? まさか、そんなモノがここにあるわけが……?」




 魔石兵装。それはレグルスも聞いたことがあった。

 魔法石の力を最大限に使うことが可能となる武装だと。

 しかしそれは噂程度、本当に実在するか不明とまでされた与太話と思われた代物だった。

 それが現実に目の前にあり、そしてノワールが口にした言葉に、レグルスは目を見開いた。




「それに第七魔石? そんなモノがあるわけが……?」




 第七魔石。その魔法石の力は、第七魔法という魔法の中で最も異端であり、強力な魔法を使える宝石。

 現実に見たものは数少ない。むしろ存在していることすら信じられないモノが目の前にあることに、レグルスは瞠目していた。




「好きに魔法を撃てば良い。その魔法の全てを、切り伏せよう」




 二振り構えたまま、ノワールがレグルスを見据える。

 レグルスは動揺しながらも、ノワールに右手を向けていた。




「そんな見かけだけの剣で俺に勝てると思うなッ!」

「ならさっさと撃て。撃たなければ、先に俺が斬るだけだ」

『風よ――切り裂けッ!』



 ノワールに向けて、レグルスが魔法を放つ。

 見えない風の刃がレグルスの手からノワールへと飛翔する。




「その程度じゃ、届かない」




 ノワールが右手に持つ剣を振るうと、彼の前に炎の壁が作られた。見えぬ刃は、ノワールの作り出した炎の壁によって打ち消されていた。




『水よ――貫けッ!』




 再度、レグルスが魔法を行使する。今度は水の小さな球が、ノワールに向けて放たれた。

 しかしノワールもまた剣を振るい、自身の周りに炎を纏わせると、彼に向かった水の球は瞬く間に蒸発していた。




「お前が魔法を大量に撃てるなら、俺も同じだ」

「……なんだと?」




 レグルスがノワールに幾度も魔法を放つが、全ての魔法をノワールは防いでいた。




「魔石兵装を使用している時、その使用者は魔法を使う回数の制限を受けない。原理は省くがな」

「そんな馬鹿げたモノがあるわけないだろ!」

「それなら撃てば良い。そして絶望して命を絶て、それがお前の今までの行いの報いた」




 ノワールは再度、二振りの剣を構える。

 レグルスが信じられないと顔を歪めながら、ノワールに魔法を放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る