第四十一話『古びた剣』
ノワールとレグルスの二人が互いに剣を交える。
しかし数回の剣戟を経て、レグルスは苦悶していた。
「くっ……!」
「どうした? さっさと終わらせるぞ?」
ノワールの言葉と共に、彼の剣がレグルスの腹部を切り裂こうと薙ぎ払われる。
命を絶つ一撃をレグルスは咄嗟に防ぎながら、ノワールから大きく後方へ跳んでいた。
『風よ――切り裂けッ!』
レグルスの手から、風の刃が放たれる。
見えぬ風の刃をノワールは横に跳び躱すと、レグルスへと迫った。
『火よ――燃やせッ!』
目の前まで迫るノワールに、レグルスが再度魔法を行使する。彼の手から放たれた火球がノワールへと飛翔した。
ノワールが眉を寄せる。レグルスから放たれた火球が回避不可と察して、彼は左手を前に向けていた。
『水よ――守れッ!』
ノワールの口から唱えられた詠唱を以て、彼の前に水の膜が現れる。
飛翔していた火球が、ノワールが作り出した水の膜に衝突する。小さな爆発が起きるが、その中でもノワールは傷一つなくレグルスに迫っていた。
放った魔法を対処されて驚くレグルスに、彼の眼前まで迫ったノワールが即座に剣を振るう。
剣の扱いに慣れていたはずのレグルスでも、ノワールの剣を防ぐことはできなかった。咄嗟に後方へ跳び、受けるはずだった剣を回避した。
しかし肩に鋭い痛みが走る。レグルスはノワールと距離を空けて自身の肩を一瞥して、舌を打った。
「舐めたことしやがってッ――!」
肩から僅かに流れる血を見て、レグルスは思わずノワールを睨みつけていた。
「妙だな……なんでそこまで魔法を使える?」
怒りの表情を見せるレグルスに、ノワールは怪訝な目を向けていた。
実のところ、ノワールはレグルスがアタラクシアと魔法で戦っていた場面を密かに見ていた。
その際にノワールは確認していた。レグルスの魔法の使用した回数を。
今、ノワールに向けてレグルスが魔法を二回使用した。先程のアタラクシアとの戦闘で彼が使用した魔法の回数を合計すると、その数がノワールには奇妙だった。
明らかにレグルスが使用した魔法の合計回数が、本来の魔石使いが使える使用回数を超えていた。
本来なら、魔石使いが使える魔法の回数は片手で数えらえる程度しかない。それは魔法石が希少で入手が難しいという点から、魔石使いの常識とされていることだった。
それを無視して、レグルスが魔法を想定以上に使用していることにノワールが幾つかの可能性を考えていたが――そんな彼に、レグルスが笑みを浮かべながら答えていた。
「お前の魔石使いみたいな雑魚の回数しか使えない奴が俺と一緒だと思わない方が良いぞ?」
明らかな自信を見せるレグルスに、ノワールが顔を顰める。
そして何か思い当たることがあったのか、ノワールは呆れた表情をレグルスに見せていた。
「お前……集めたのか、魔法石を?」
「へぇ? 意外と頭は悪くないみたいだな?」
ノワールの言葉に、レグルスが笑う。彼は笑みを見せながら、自身の着ていたコートの中をノワールに見せていた。
「これが俺がこの街で最強になった証だ」
レグルスのコートの中にあったのは、大量の宝石だった。コートの裏に、数多くの宝石が飾られている奇妙なコートだった。
それを見た途端、ノワールは僅かに目を大きくしたが、すぐに面倒そうに顔を歪めていた。
「なるほど。事前に聞いていた街の資金が減っていたのも、お前が原因か」
「俺がこの街で一番偉くなるんだ。これくらいは必要資金だ」
「その資金が無くなれば、街の人達が困ることくらい分からなかったのか?」
「街の貧民なんて少なくなれば補充すれば良い。勝手に街には人が集まるんだ。俺が俺の街に住む人間をどうしようが俺の勝手だろ?」
「信じられないくらい、お前は領主に向いてないな」
自身が正しいことを告げていると信じて疑っていないレグルスを見て、ノワールが冷たい視線を向けていた。
「はっ、言ってろ! どうせすぐにお前も魔法が使えなくなるんだ。魔法が使えなくなれば、お前なんて雑魚なんだよ!」
ノワールの使用できる魔法の回数を把握していないレグルスだったが、魔法使いの使用できる回数のおおよそは彼も理解していた。
先程、ノワールは一度だけ魔法を行使した。残りは多くても四回程度だろうとレグルスは予想を立てていた。
「確かに、お前の使える魔法の回数より俺の回数は少ないだろうな」
勝ち誇るレグルスに、ノワールが淡々と答える。
そしてノワールが唐突に手に持っていた剣を捨てると、徐に腰に手を添えて“とあるモノ”を手に取っていた。
「あ? そんな小汚いもんで俺に勝つって?」
レグルスがノワールの手にしたモノを見て、失笑を見せる。
ノワールが手に持っていたのは、彼が今まで腰に携えていた古びた布に覆われた棒状のナニかだった。
「お前みたいな人間は生きていても良いことはない。だから、さっさと終わらせてやる」
そう言って、ノワールが古びた布を棒状のナニかから剥がす。
そしてそこから姿を見せたのは、錆びついた短い短剣だった。
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