孤高の暗殺者

lex

1.


 ある日の午後、私は日の暮れた路地裏を散歩していた。私の今日のやるべき仕事は終えていた。精神を安らがせるための散歩は私にとって欠けてはならないものだった。私は毎日決まったルーティンで生活している。世間では私の事を煙たがる人間が多い。だから、私は日の目を永遠に見ない、誰からも歓迎されない仕事を淡々とこなす。どうして私がこの職業を選択したのか…よく考えることがある。ジョンレノンが言っていたように「人生は人生を考えること以外にある」のかもしれない。だとしたらこの思案は全くの無意味なものである。今日の朝食はパンに牛乳、スクランブルエッグにケチャップを加えた物だ。一年の間、このメニューを食べ続ける。他の物を食べようとしたこともあったが、なぜか口に合わなかった。毎朝六時四十五分に起き、ベッドのそばに置いてあるサントリーの2リットル天然水を飲む。洗面台で顔を洗い、タオルで顔を拭く。この際に今日の自分のコンディションを事細かく観察する。大抵、その日の体調は朝の寝起きの表情によって予測することができた。体調を予測することはとても大切な日課だ。なぜならコンディションによって依頼された案件の処理の仕方が全く違うものになってしまうからだ。刺殺、絞殺、撲殺、毒殺、あるいは事故に見せかけた殺害…。殺し方は色々あるが、コンディションの悪い日には接近戦での殺害は絶対にしない。接近戦で殺害を試みる場合は案件達成の締め切りまで時間が迫られている場合か、依頼者が特定の殺害方法を指定してくるかでなければリスクの高い殺し方だ。私が一番多用する殺し方に毒ガスを使ったものが多い。これが最もリスクが低い殺し方だ。殺害ターゲットの家に忍び込み、ガス栓を開けて金具で固定し、空調器具を全てオフにし、窓や隙間を接着剤など使って完全に密閉してしまう。そうするとおおよその人間は次の日の朝、コロリと死んでしまっている。証拠が残らないように徹底して手袋やマスクや帽子をはめて作業をする。私は月に二件、殺しの案件を請け負う。一件、2000万〜数億まで料金は様々だ。私がやる殺しは民間人殺害が最も多いが、三年に一度は政治やビジネスに携わる、いわゆる大物と呼ばれる人間を処理することもある。彼らに私的な憎しみや恨みは微塵もない。だが私はある種、自分の暗殺稼業というものに誇りをもっている。この仕事がなければ社会にうずもれた悪者たちを直接お仕置きする機会がない。特にこの高度に法治国家として機能している日本社会においては。日本社会における悪者は、大抵自分が逮捕されないように、警察機関、司法機関、その他諸々に自分の息がかかっている者達を配備している。つまりは世の中は一部の支配的権力者によって都合の良いように回っているということだ。彼らはあらゆる手段を使って自らの権益や利得が栄えることのみに熱中している。これでは我々民衆は手の施しようがない。つまり、私のような社会の暗部と呼ばれる人間が、そういう連中を手にかけていかなければ、未来の才能溢れる若者たちが、世に貢献する環境を与えられる事は、永遠に訪れないのだから。新たな才能が世に出るということは、彼ら権力者にとっては最大の脅威である。権力者にとって都合の良い社会は、私たち日本国民を貶め、財産を搾取する社会である。私はそんな日本現状を打ち壊す為に存在している。

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