第108話 剣に成るため
滅竜魔闘男子の部は各ブロック頭一つ抜けた実力者がいたこともあり、すぐに決着がついていった。
「よお、スタ坊」
「ルーファス様、見回りはどうされたんですか?」
「安心しろ、今はポンデローザとステっちが担当してくれてる。俺様は非番だよ」
予選が進んでいく中、控え室にはルーファスがやってきていた。
「なあ、スタ坊。お前にずっと言いたかったことがある」
「何ですか、藪から棒に」
てっきり激励の言葉をかけられると思っていたスタンフォードはルーファスの言葉に怪訝な表情を浮かべる。
「俺様はいずれ騎士団長の座を継いでハルバードの右腕として生きる。そんな一本道しかないと思っていた」
ルーファスは珍しく真剣な表情を浮かべて続ける。
「でもな。必死に藻掻いて何かに抗おうとしているお前の姿を見て考えが変わった」
ルーファスはずっと昔から騎士団長になることを義務づけられ、そのためだけに剣の腕を磨いてきた。
剣に心は不要、ただ主の敵を斬る剣であれ。
リュコス家に代々伝わる家訓。
幼い頃のルーファスは真面目で、その家訓を額面通りに受け取っていた。
主の命のまま敵を切り伏せるだけの剣に成る。
それを目標として腕を磨いていたルーファスはいつしか周囲に失望し、どうせ結果が変わらないのならばそれまで身勝手に振る舞おうと思うようになった。
しかし、運命に抗おうと研鑽を続けるスタンフォードを見ている内に、その考えは変わっていたのだ。
「前に言ったよな、俺様はスタ坊に期待してるってな」
「ええ、ですがそれは……」
スタンフォードならばルーファスが剣を捧げるに足る主になり得る。
ルーファスはこの滅竜魔闘を経てスタンフォードの器を見極めようとしていたのだ。
「変わったのはスタ坊だけじゃない。お前が変わってから周りも変わり始めた」
スタンフォードはポンデローザと出会い変わった。
自分の至らなかった部分を反省し、いつだって必死に努力し続けてきた。
そして、そんなスタンフォードを見て変わった者達は大勢いた。
ステイシーは自分を卑下して諦めることを良しとせず、自信の得意魔法である硬化魔法を進化させた。
コメリナは自分と同じ分野で秀でた者がいても腐ることはせずに研鑽を続け、誰にも真似できない自分だけの魔法を開発してみせた。
セタリアは家の方針に従うだけではなく、自分の意思を持つようになった。
アロエラは思考停止をやめ、考えることの大切さを学ぶためにかつて嫌っていたスタンフォードの臣下となった。
ジャッチは過去の行いは水に流し、スタンフォードの友であることを選んだ。
世界から見れば些細な変化かもしれない。
しかし、それは他ならぬスタンフォード自身が変わろうとする姿を見せ続けたからこそ生まれた変化だった。
「俺様も同じだ。お前を見ていたら剣が疼いて仕方がねぇんだよ」
ルーファスもまた自分の殻を破らんがため、足掻く決意をしたのだ。
「僕は何もしていません。でも、そう言っていただけるともっと頑張ろうという気持ちになります」
そんなルーファスの決意が籠もった言葉を聞いたスタンフォードは笑顔を浮かべた。
「応援ありがとうございます、ルーファス様。俺、必ずこの滅竜魔闘で優勝しますから」
「応援? そいつはちょっと違ぇな」
「え?」
ルーファスの言葉にスタンフォードは虚を突かれたように呆けた表情を浮かべる。
「俺様は剣に生きてきた人間だ。結局は剣でしか語れない。だから――」
『予選Gブロック出場者の生徒は準備するように!』
「本戦、楽しみにしてる」
教師の声に従い、予選Gブロック出場者達が次々と舞台へと向かっていく。
その中にはルーファスの姿もあった。
「お、終わった……」
学園最強の魔導士であるルーファスが出場すると知ったスタンフォードはがっくりと肩を落とすのであった。
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