第107話 曇る聖剣

 ブレイブは予選に向けて念入りに自分の剣の手入れをしていた。

 スタンフォードが自腹を切って自分のために用意してくれた魔剣。

 スタンフォードからしてみれば、ブレイブという戦力を必要としてやったことだが、ブレイブからしてみればそれは親友からの贈り物。


 自分の正体が何者かという答えを得た今でもブレイブにとっての剣は自分ではなく、スタンフォードからもらった魔剣〝ソル・カノル〟だった。


「聖剣ベスティア・ブレイブか……」


 聖剣ベスティア・ブレイブの存在はブレイブも歴史の授業で習った程度で知識があった。

 ベスティア・ブレイブは創世記に世界樹の枝から作られた聖剣であり、世界樹の巫女ラクリアを守るために多くの敵を切り伏せたとされている。

 対を成す盾であるベスティア・ハートと共に王国を外敵から守ってきた聖遺物。

 それが自分だなんて言われたところで実感はまるで湧かない。


「俺は何なんだろうな……」


 ずっと頭の中にあった疑念。その答えを得たはずなのにブレイブの心にかかった靄は晴れなかった。

 むしろ、自分は人間なのかそうではないのかという迷いが新たに生まれてしまっていた。


「予選が始まるぞ! 選手は準備したまえ!」


 担当教師が滅竜魔闘男子の部の予選が始まることを告げる。


「おい、ブレイブ。呼ばれてるぞ。お前、Aブロックだろ?」

「あ、ああ、悪い。すぐ行く」


 考え込んでいたブレイブは、同じクラスの友人に声をかけられて慌てて舞台へと向かう。


『いやぁ、ついに男子の部が始まりますね!』

『女子の部も見応えのある試合ばかりだったが、男子の部も優秀な生徒が多いから楽しみだな』

『やはり、注目は彼ですか?』

『ああ、ブレイブ・ドラゴニル。ドラゴニル辺境伯の息子であり、数少ない光魔法の使い手だ。期待するなという方が無理な話だ』


 実況席からブレイブの活躍を期待する声が聞こえてくるが、ブレイブの耳には入っていない。


『滅竜魔闘男子の部Aブロック、試合開始!』


 気もそぞろなまま、舞台へと上がったブレイブは試合開始の合図と共に反射的に剣を振るう。


「〝滅竜光刃めつりゅうこうじん乱舞らんぶ!!!〟」


 光の刃が舞台上で飛び交う。

 舞台の中心部にいたブレイブが放った光の刃の連撃に為す術もなく生徒達が場外へと吹き飛ばされていく。


 観客席にいた生徒達はその光景に盛り上がる。

 ブレイブが大勢の生徒達相手に一方的に無双する試合。誰もがその光景を望んでいた。


『勝者、ブレイブ・ドラゴニル』


 しかし、盛り上がる生徒達とは対照的にブレイブの表情は曇ったままだった。

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