第99話 ステイシーVSセタリア その1
ついにやってきた決勝戦。
ステイシーは緊張を露わにしながらも舞台へと上がる。
それに対してセタリアは堂々たる姿で舞台へと上がった。
「ステイシーさん、さすがですね。アロエラを破ってここまで上がってくるとは予想外でした」
「私だけの力じゃありません。こんな私に優しくしてくれた人達の協力があったからこそ、私はここまで強くなれたんです」
「あなたは本当に謙虚ですね」
ステイシーが行ってきた数々のジャイアントキリングを見れば、彼女の実力が非常に高いものであるということは誰にでも明白だ。
それでも驕らずに自分にできることを地道に続けてきたステイシーに、セタリアは深い敬意を払った。
『さあ、やってまいりました! 滅竜魔闘女子の部決勝戦! ついにこの王国最高の魔導士を育成する学園の女子最強が決まります!』
『ルドエ嬢のジャイアントキリングを見たい気持ちもあるが、セルペンテ嬢の実力は他と一線を画す。この試合は見物だな』
観客席の熱は最高潮に達している。
スタンフォード達も例に漏れず、興奮したように二人の闘いが始めるのを待ちわびていた。
「おい、ステイシーの奴ついに決勝まで来ちまったよ!」
「ステイシーは滅竜魔闘の中で成長していましたからなあ。とはいえ、セタリア様は一筋縄ではいかないでしょうな」
「アタシだって闘いの中で成長したんだけどなぁ……」
「アロエラちゃんも凄かったよ。次、頑張ろ?」
観客席には試合を終えたアロエラもやってきていた。
試合で腫れ上がったはすっかり元に戻っており、後遺症も特にない。強いて言うならば、魔力が急激に減って倦怠感を覚えているくらいだろう。
どんなにボロボロになってもここまで完璧な治癒が行えるのも、光魔法の使い手であるマーガレットがいるからこそである。
「あわわ……私はどちらを応援すれば」
「どっちも応援してやればいいだろう」
忙しなくステイシーとセタリアに視線を向けているフォルニアを見てスタンフォードは苦笑する。
「これで全てが決まるわけじゃない。でも、少しでも希望は多い方がいいからね」
スタンフォードは祈るような気持ちで、快進撃を続ける友人に優しい眼差しを向けた。
『試合開始!』
試合開始の合図と共にステイシーが弾かれたように駆け出す。
「〝
ステイシーは砂鉄を操り、四方からセタリアを取り囲む。
「〝
「なっ、砂鉄が!?」
しかし、セタリアは宙に浮かび上がる砂鉄を旋風で吹き飛ばした。
「殿下がよくおっしゃってました。砂鉄は扱いやすい分、風で飛ばされてしまうのが難点だと」
セタリアは幼い頃からスタンフォードの横で嫌になるほど、どんなに彼の魔法が凄いかを聞かされてきた。
そのほとんどが要領を得ない自慢話だったとはいえ、何度も聞いていれば何となくは特性が理解できる。
それ故、スタンフォードから得た魔法知識はセタリアに対して有効には働かない。
一瞬で、武器を一つ失ったステイシーは冷や汗を流す。
「〝
そのまま旋風に吹き飛ばされそうになり、慌ててステイシーは地面ごと自分の足を硬化して体を固定した。
「あなたが最も得意とするのは接近戦。なら遠距離武器を取り上げて近づかせなければ脅威ではありません」
セタリアは油断なく細剣を構えると、風魔法を詠唱する。
「〝
その魔法を唱えた途端、優しい風がセタリアを包み込み、彼女を天高く舞い上がらせる。
『おおっと! セタリア選手、これは飛行魔法だ!』
『飛行魔法は風魔法の中でも屈指の難易度を誇る。それをいとも簡単にやってのけるとは、さすがだ』
守護者の家系であるセルペンテ家では、高度な風魔法を得意とする者を輩出してきた。
セタリアもその例に漏れず、風魔法を高度な領域で使いこなしていた。
「〝
「っ! 〝全身硬化!!!〟」
上空から飛んでくる風の刃を防ぐため、ステイシーは全身を岩石のように硬化させる。
刃こそ完全に防げるが、ステイシーから手出しをすることはできない。
一方的な試合展開を眺めていたスタンフォード達は険しい表情を浮かべる。
「防戦一方だな……」
「頑張れステイシー! アタシに勝ったんだから負けないで!」
「無茶言うなよアロエラ。リアは安全圏から一方的に攻撃できるんだぞ」
セタリアを応援していたブレイブですら、気の毒そうな表情を浮かべてスタンフォードへと話しかける。
「なあ、スタンフォード。ステイシーに勝ち目はあると思うか?」
「不利なだけで勝ち目はある。けど、その勝ち筋がステイシーに見えているかはわからない」
スタンフォードも険しい表情を崩さずに試合の行方を見守る。
セタリアは細剣に纏わせた斬撃の風を休むことなく放ち続ける。
そんな光景がしばらく続いが、段々と状況に変化が訪れる。
「くっ……!」
セタリアが息を切らしたのだ。
セタリアは高度な風魔法である飛行魔法を使用しながら攻撃魔法を放っていた。魔力の消費も激しい。
それに対してステイシーはあまり魔力を消費しない硬化魔法だけで攻撃を凌いでいた。
硬化魔法は土魔法の基本中の基本の魔法。そのうえ、ステイシーは自分の肉体を硬化させているため、魔力のロスが限りなくゼロに近いのだ。
肉体的にもダメージが全くないステイシーに対して、大量の魔力を消費して疲労しているセタリア。
規格外の我慢比べに勝ったのはステイシーの方だった。
そして、滅竜魔闘が開催される時期もステイシーに味方をした。
今月は土生月であり、土属性の魔力が活性化している。
ステイシーの魔力も例に漏れず活性化しており、普段よりも魔力が上がっているのだ。
「〝
ステイシーは攻撃が途切れた瞬間に、自信の足下の地面を隆起させてセタリアがいる上空へと向かう。
その姿に誰もが目を奪われた。
後にこの光景を見た生徒の一人はこう語った。
地を這う獣が大空を飛び回る鳥を堕としたようだ、と。
「しま――」
「〝
ステイシーは頭上で両手を組んでセタリアへと振り下ろす。
隙を突かれたセタリアは、抵抗することもできずにそのまま舞台へと叩き付けられた。
舞台に接触する瞬間、僅かに放った風魔法で衝撃を少しは殺すことに成功したが、怪我は避けられなかった。
骨が何本か折れ、立ち上がることすら厳しいセタリア。
誰もがステイシーの勝利を疑わなかった。
しかし、一人だけ笑顔を浮かべてその光景を眺めている者がいた。
「無駄ですよ。不利な状況であればこそ彼女の魂は輝きを増す」
その男はセタリアの意思などこの世界にとっては必要なとばかりに決められた運命を口にする。
「さあ、世界樹の巫女の魂よ。目覚めるときですよ」
倒れても降参宣言をしないセタリアから勝利をもぎ取るためにステイシーはセタリアの元へと駆け出す。
その瞬間、セタリアの体から眩い光が溢れ、ステイシーをステージの端まで吹き飛ばした。
「これは……」
セタリアの体が光に包まれるのと同時に彼女の怪我たあっという間に治っていく。
「そうでしたか……全て理解しました」
自分が何者なのか。長年求めていて答えを知り、セタリアは悲しそうな表情を浮かべた。
ブレイブに抱いていた感情。それは恋心でも自分の意思でも何でもなかった。
「まさか、私が世界樹の巫女の生まれ変わりだったなんて……」
世界樹の巫女ラクリア・ヴォルペ。それこそがセタリアの前世だった。
原作ならば、セタリアの中で眠るラクリアの魂は滅竜魔闘の決勝で片鱗を見せる程度だった。
しかし、決められた運命が捻じ曲げられようとしたとき、世界は正しい運命へと現実を修正する。
セタリアが優勝するという結果を阻害する強力なイレギュラーに対応するために、セタリアは訳も分からず魂を完全に覚醒させられることになったのだ。
そして、それを引き起こした
「まだそんな隠し玉を持っていたなんてさすがです……私だって負けません!」
「殿下、申し訳ございません」
向かってくるステイシーのことなど見えていないかのように、セタリアは独り言ちると細剣を構えて光と風を纏わせる。そこに自分の意思などは存在しない。
結局自分はどこまでもいっても〝道具〟でしかなかった。
「〝
「〝
高速で放たれた光り輝く風の刃。
それはステイシーの硬化を容易に破った。
「全てが最初から決められている。なんて空虚なのでしょうか」
身体を切り裂かれて吹き飛ぶステイシーをセタリアは悲し気な瞳で見つめる。
セタリアの肉体は何も考えなくても勝手に動いていく。
前世の魂が覚醒した影響なのか、セタリアは導かれるように光魔法を発動させていった。
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