第100話 ステイシーVSセタリア その2
セタリアの体が眩い光に包まれるという光景に観客達が驚いている中、氷のように冷たい視線を向けている者がいる。
「セタリアが世界樹の巫女の転生体で確定した。つまり、これはBESTIA BRAVEのルート。スタンのルートには行けない」
ポンデローザは少しでも希望を抱いたことを後悔していた。
どれだけ自分は学習能力がないのだ。原作通りなんて何度も味わってきたことじゃないか。
そうやって再びポンデローザの心が凍り付いていく。
「でも、メグの中には一体誰の魂が入っているのかしら……」
ふと、この世界で新しくできた親友の顔が過ぎる。
マーガレットが存在するということは、きっと彼女に世界樹の巫女の魂が宿っているものだと思っていた。
しかし、実際は違った。
「もうどうでもいっか」
大事なことであるはずなのに、ポンデローザは踵を返すと決まり切った結末に見切りをつけた。
そんなポンデローザの背後には彼女によく似た人物が立っていた。
『ラクリアの魂はあっちの子に入ってたのね。顔が似てるもんだから、あのメグって子には悪いことしちゃったわね』
誰も人として視認することのできない女性はそのまま仮初の姿に身を窶した。
ポンデローザが決勝の結果に見切りをつけている間にも戦いはセタリア優勢のまま進んでいく。
「〝
「どうして、セタリアさんが、滅竜剣を……!」
セタリアは光属性の強力な攻撃魔法である滅竜剣を発動させていた。
「久しぶりの現世か……どうにも肉体の感覚になれないなぁ」
そして、現代において超常現象とも言える現象を引き起こしている本人はまるで別人のように豹変していた。
否、事実別人となっていた。
「事情はよくわからないけど、ブレイブが見てるのに負けるわけにはいかないからね」
いつの間にか肉体の主導権は交代し、長い年月を経て復活した世界樹の巫女ラクリアがセタリアの肉体を動かしていた。
『私の肉体を返してください!』
「ごめんごめん、私もよくわかってないんだ。でも、大事な場面っぽいし、さくっと勝っちゃうね」
『そうではなくて!』
ラクリアは脳内に響き渡るセタリアの声に謝罪しつつも、油断なく細剣を構える。
現在のセタリアの肉体には高度な治癒魔法が常に自動でかかっている状態であり、ステイシーがやっとの思いで与えたダメージも既になくなっていた。
「悪いけど、さっさと終わらせてもらうよ。ブレイブとは話したいことが山ほどあるんだ」
魔力を細剣に流し始めるラクリアを見て、セタリアは自分にはもう何もできないのだと項垂れた。
奇しくも彼女の立ち位置はポンデローザと同様、逆らえぬ運命に自分の無力感を覚える悪役令嬢そのものだった。
そして、輝きを増していく細剣を見て、ステイシーも
「〝
「あ――」
運命には勝てない。
そんな陳腐な言葉が脳内を過ぎる。
どんなに硬化しても破られることが確実な光の剣が迫りくる。
「負け――」
「――てたまるかぁぁぁぁぁ!」
ステイシーの怒号が轟く。
コメリナが託してくれた。
スタンフォードが信じてくれた。
だから、運命なんて言葉に負けたくはなかったのだ。
「っらあぁぁぁぁぁぁ!」
ステイシーが抱く固い意志は彼女の肉体を細胞から変質させていく。
魔法は意志や想いを力に変える。
ステイシーの肉体は以前よりも硬く、そして輝かしく変質していく。
硬化の間に合わなかった長い前髪が光を纏った風の刃に切り飛ばされ、彼女の顔が露わになる。
「〝
眼球すらも硬化したステイシーの姿は、まさに輝きを放つ宝石ダイヤモンドのようだった。
彼女はもうただの
スタンフォードをこの世界の主人公へと押し上げる、かけがえのない
「なっ……!?」
創世記に生きたラクリアでもたった数回しか見たことのない魔力の変質。
それを自力で起こしてみせたステイシーにラクリアは言葉を失っていた。
「どれだけ攻撃しても回復するのなら、一撃で決めるしかない……全魔力解放!」
「まさかこんな子が未来にいるなんて思わなかったよ……!」
二人は体の底から魔力を絞り出して発動させる。
「〝
「〝
光り輝く聖剣とドリルが真正面から激突する。
まるで神話のような光景に観客達は歓声を上げることも忘れて、目の前の光景に目を奪われた。
そして、完全に拮抗した力は眩い光と共に弾けて、両者を同時に吹き飛ばしたのだった。
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