第97話 ステイシーVSアロエラ その2

 僅かの攻防の間にお互い重症。


「〝骨子硬化ボーンハドゥン!!!〟」


 ステイシーは硬化魔法で即座に折れた肋骨を固定する。

 その一瞬の判断と魔法の応用力にアロエラは舌を巻く。


「驚いた。硬化魔法で折れた骨固定しちゃうなんて……」

「自爆で傷口を焼いて止血したアロエラさんに言われたくないです」


 お互い魔導士としては規格外の存在であることは誰が見ても明白だ。

 地力では魔力の質も量もアロエラの方が優位。魔法の応用力ではステイシーに軍配が上がる。


「こうなったらもう真向勝負しかないよねぇ!」

「受けて立ちます!」


 アロエラとステイシーは弾かれたように同時に駆け出す。

 お互いここが正念場だということがわかっていたからだ。


「〝破魔・粉砕拳ディスペル・フィスト!!!〟」

「〝黒砂・鉄拳硬化ナックルハドゥン・メタル!!!〟」


 アロエラは拳に魔法を解除する破壊魔法を纏い、ステイシーは拳に砂鉄を纏って硬化魔法をかける。

 二人は防御するそぶりすら見せず、互いに拳を交差させる。


「ぐふっ」

「うがっ」


 顔面に拳がめり込む嫌な音がするが、二人は構わず拳での殴り合いを続ける。

 鈍い音が響き渡り、最初こそ盛り上がっていた観客達は女子の部とは思えない生々しい殴り合いに引き始めていた。


「なあ、俺もう見ていられねぇんだが……」


 魔導士というか拳闘士の戦いと化した準決勝の試合を見ていたジャッチはゲンナリした表情お浮かべていた。


「そう言うなって。絵面こそエグイけど、あれでステイシーもアロエラも駆け引きの末にああなったんだから」

「どういうことだ?」


 ブレイブが不思議そうな表情を浮かべたため、スタンフォードは試合からは目を離さずに説明する。


「アロエラはステイシーに硬化魔法をかけられると拳を痛める。だから拳にディスペルをかけるしかない。ハンマーは隙が大きいから小回りの利くステイシー相手には向かないからね」

「なるほど、つまり、拳での殴り合いに応じるしかないというわけですね」

「その通りだよ、ニア。でもって、ステイシーは顔に硬化魔法をかけずに攻撃に回すしかない。だから、拳だけに魔力を集中させている。アロエラもいつ顔の方に硬化魔法が掛かるかわからない以上、ディスペル纏った拳で殴り続けるしかないからね」


 もはや二人の顔は原型がわからないほどに酷く腫れ上がっている。

 ここまでくれば意地と意地のぶつかり合い――そう見えるだろう。


「ステイシー、防御が得意な君がここまで守りを捨てたんだ。ただ耐えるだけで終わったりはしないよね?」


 スタンフォードはステイシーがまだ何か隠し玉を持っていると確信して、ニヤリと笑うのであった。


「まだまだァ!」

「くっ、うぐっ!」


 段々とステイシーが押され始めた。

 当然である。彼女が得意とするのは硬化魔法であってサンドバッグになることではない。


「オラオラァ! どうしたァ!」

「かはっ…………ふっ」


 何本か口から歯が折れて飛んだその瞬間、ステイシーが僅かに笑みを浮かべる。

 それをスタンフォードは見逃さなかった。

 ステイシーの拳にはもう砂鉄は纏わりついていなかった。

 そして、それはアロエラの足元に集まっていた。


「今月は土生月、魔力は十分です! 全魔力集中、造形砂鉄……〝岩鉄掌がんてっしょう!!!〟」

「ぐぇっ!?」


 アロエラの足元に集まった砂鉄は、巨大な掌の形になって気を抜いたアロエラを一気に張り飛ばした。

 潰れたカエルのような悲鳴を上げてアロエラはそのまま場外へと吹き飛んでいくのであった。


『勝者! ステイシー・ルドエ!』


「や、やりまし……た……」


 ステイシーは糸の切れた人形のように、その場に倒れそうになる。


「よく頑張った、ステイシー・ルドエ。アロエラも」


 そんな彼女を支えたのは、急いでやってきた治癒班のコメリナだった。


「コメリナちゃんはステイシーちゃんの治療をお願いね。私はアロエラちゃんを直すから」

「メグ先輩、了解」


 マーガレットも急いで駆けつけてその場で治療が始まる。

 こうしてあまり子供に見せられないような準決勝はステイシーの勝利に終わった。



 残るは運命の決勝戦のみである。



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