第53話 異形種調査について

 長期休暇に入り、多くの生徒達は実家に帰省する中、生徒会関係者達は生徒会室に集められていた。


「さて、以前から計画していたことだが、我々生徒会も直々に動いて最近この学園周辺で起こっている異変の調査に乗り出す。マーガレット、資料を頼む」

「わかりました」


 ハルバードはそう切り出すと、マーガレットに作成した資料を配布するように促す。


「調査場所はドンブラ湖、アカズキー遺跡……ふぁ!? ルドエ領!?」


 資料に示された調査地の中に実家の名前があったステイシーは驚きのあまり素っ頓狂な声を上げて立ち上がった。


「ルドエさん」

「す、すみません……」


 ポンデローザに注意され、縮こまるようにステイシーは席に着く。

 ステイシーが落ち着くのを確認すると、ハルバードは淡々と続ける。


「ルドエ嬢、資料の通りだ。ポンデローザ、ルーファス、マーガレット、スタンフォード、ドラゴニル、そしてルドエ嬢、君達六名で異形種の調査に向かってもらいたい」

「まさか、私が推薦されたのって……」

「いや、それは関係ないぜ?」


 ステイシーは調査地が自分の実家だったからこそ生徒会メンバーに選ばれたのだと思ったが、それはルーファスによって否定される。


「俺様はあんたが生徒会メンバーとしてやっていける人材だったから推薦した。ただの伊達や酔狂だけで推薦したりしねぇよ」

「えっ、じゃあ……」

「あんたを推薦したのは俺様だよ」


 基本的な判断基準が面白いかつまらないの二つであるルーファスだが、何だかんだで彼は重要な場面でふざける人間ではない。

 ステイシーを推薦したのも、彼女が生徒会の仕事をこなせて戦力としても有用だったからである。

 そんな二人のやり取りを見たアロエラは慌てたようにコメリナへフォローを入れた。


「こ、コメリナ、あんまり気にしちゃダメだよ? こうして生徒会に呼ばれている以上、あんただって有能とは思われてるんだからさ」

「ん、大丈夫」

「えっ……」


 先日とは打って変わって、コメリナはルーファスからの推薦をもらえなかったことをまるで気にしていなかった。

 あまりの変わりようにアロエラは困惑する。

 そんな彼女を置いて話は進んでいく。


「アカズキー遺跡の方にはセルド、セタリア、アロエラの三名で向かってくれ」

「承知した」

「かしこまりました」

「せ、セタリアと一緒か……」


 現状、恋敵と思い込んでいる相手で折り合いが悪いセタリアと同じ組にされたことでアロエラは表情を引き攣らせた。


「そして、コメリナをはじめとする生徒会特別調査班はドンブラ湖へと向かってくれ」

「承知。殿下、臣下借りる」

「ああ、せいぜいこき使ってくれ」


 生徒会室には特別調査班の代表としてコメリナ一人が来ていたが、特別調査班にはジャッチやガーデルなどの名家の出の者も選ばれていた。

 ガーデルがスタンフォードの臣下になったという話は、一年生の間では有名な話だ。

 コメリナは主人であるスタンフォードに断りを入れて笑顔を浮かべた。

 滅多に笑うことのないコメリナが笑顔でスタンフォードに話しかけたことで、セタリア、ブレイブ、アロエラの三人は驚いたように二人の顔に視線を向けた。

 そんな落ち着きのない一年生達の様子は歯牙にもかけずにハルバードは会議を締めにかかった。


「調査に必要な支給品の手配は済んでいる。他に必要なものがあれば個人でまとめておくように」

「詳しいことは資料を参照してくださいな。それと、会議中の私語は慎むように」


 こうして生徒会室での会議はお開きとなった。

 会議が終わった途端、セタリア、ブレイブ、アロエラの三人はスタンフォードへと詰め寄った。


「スタンフォード殿下、一体何をしたのですか?」

「そ、そうですよ。何でコメリナがあんなに元気になってるんすか!」

「いつの間に仲良くなったんだ?」


 ようやく顔と名前を覚えてもらったセタリア、光魔法でかろうじて興味を持ってもらえたブレイブ、昔から付き合いのあるアロエラからしてみれば、コメリナとスタンフォードが仲良くなっていることには疑問符しか浮かばなかった。

 予想通りの反応に苦笑しながらも、スタンフォードは答える。


「偶然会ったときに魔法に関する話をして気が合っただけだよ」

「うん、殿下と話合う。すごく楽しい」


 コメリナは本当に楽しそうにスタンフォードの言葉に頷いた。


「コメリナ、マジなの? だって、その、スタンフォード殿下よ?」

「何かおかしい? 殿下、優秀。あと、良い人」


 スタンフォードに対してマイナスイメージの強いアロエラはコメリナを心配するが、コメリナは不思議そうに首を傾げるだけだった。

 それからコメリナは思い出したかのように立ち上がると、ステイシーの元へ歩み寄った。


「そうだ。ステイシー・ルドエ」

「は、はひぃ!」


 突然名前を呼ばれたことでステイシーは、悲鳴のような叫び声をあげた。


「絶対負けない。これ、宣戦布告」

「えっ、あ、はい?」

「じゃあ、私戻る」


 一方的にそれだけ告げると、コメリナは生徒会を出ていった。


「どうやらライバル視されたみたいだね」

「いやいや、コメリナ様と私じゃ格が違いすぎますよ!?」

「コメリナはそうは思ってないってことだろうさ」


 どこか楽しそうに笑うと、スタンフォードは生き生きとしたコメリナの表情を思い浮かべていた。


「あなた達、ここは放課後の教室ではありませんわ。いつまでおしゃべりをしているつもりですの?」


 わいわいと盛り上がっていた空気が一瞬にして凍りつく。

 全員が振り返ると、そこには不機嫌そうに鼻を鳴らすポンデローザが立っていた。


「早く仕事に戻りなさいな」


 その一言で全員が蜘蛛の子を散らすように解散して各々の仕事に取り掛かかるのであった。

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