第8話 すみれ色のドレス
私は仲良が良い人のことをたまに花で例えたりする。
どうやって決めるのかというと、大体はその人が好きでよく身につけている色とかその花が咲く時期とか、習性とかの特徴で決める。
例えば、夏が好きでいつも日に焼けていた友達は向日葵で、残酷な話が好きでちょっと毒っ気のある先輩は彼岸花、いつも夜みたいに暗い顔をしているけどそれでも眩しいくらいに美人なこの子は月下美人だと思った。
ふと気になった。私はどうだろう。
「私ってさ、お花に例えたら何だと思う?」
月下美人は答えた。
「スミレかなぁ」
「へぇ、どこらへんが?」
「花言葉が、確か 謙虚 とかじゃなかったっけ。優しくて控えめだから争いごとが嫌いで、人より上に立とうとするのが苦手でしょ」
「花言葉かぁ、いいね。」
その言葉を聞いてから、花言葉で例えるというアイデアを採用するようになった。
彼女は人に対してもそうだけど、花に対しても見た目だけじゃなくて中身を見てるんだなって感じた。
それから、私の一番好きな色は紫色になって一番好きな人はその子になった。
そんな会話からそろそろ5年が経つ。
あれから私たちは別々の道を歩んだ。
月下美人のあの子は絵描きを目指してに美大に行って、私は生け花を学びたくて京都へ行った。
謙虚というよりかは自分に自信がない私は自己アピールとかいうやつが一番苦手でなかなか就職出来ずに、思うように人生が進んでいかない。
自分と同い年の子がどんどん先へ進んでいっているのを見ても、当然だよなぁなんて思ってしまう。
そんな時はあの子のことを思い出していた。
私なんかよりずっと色々なものを持っているのにいつも私を羨ましがってくれていたし、あの子も今頃頑張ってるんだろうなって思ったら負けてられないぞって気持ちになる。
ある日、とあるデザイン学校の公募をみつけて、私はフラワーアレンジメント部門で挑戦してみる事にした。
大会の雰囲気を調べてみようと前年度の作品を眺めていると、ウェディングドレス部門で不思議な作品を見つけた。
どのドレスも真っ白なのに、このドレスだけ紫色だった。
紹介文には、こう綴られていた。
今回はすみれ色のドレスを作ってみました。スミレの花言葉に 小さな幸せ というものがあります。
誰もが人生の中でこの世界に爪痕を残したい、すごい人になりたいと思うことがあるのではないでしょうか。
しかし、それを成し遂げるためには相当な努力が必要です。そして、同じように頑張る人がいる以上、私たちは戦い続ければなりません。他人の大きな光を見て、自分の小さな光に自信を無くして挫折してしまう人も沢山いると思います。
だけど私はみなさんに、困難の末手に入れる大きな幸せより、すぐ目の前にある小さな幸せの素晴らしさを大切にしてほしいと思っています。
花嫁さんには愛する人と、家族と一緒にそんなささやかな幸せを築いていってほしい。そんな願いを込めて作りました。
作品に応募者の名前とかは載せられていなかったが、あの子らしいなぁと呟いていた。
それからスケッチブックとスミレの鉢植えを持ってきて、私はペンを取った。
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