第9話 君へ贈る霞草
結局はくだらないと思ってしまう自分がいる。
素敵な物語を綴りたい一心で、
君との思い出を文章にしては何度も消した。
あの日々を売り物のようにしてしまう感覚がどうしても苦しくて、だから結局私は本当の「お話」を書けずにいる。
自分の経験なんて何一つ入ってない、頭でっかちな作り話ばかり。
恥ずかしいと思うことから逃げたいだけの、綺麗な言葉だけで組み立てた作り話。
ふと思うことがある。
私が書きたかったものは何だったろうか。
楽しかった思い出、あの時伝えられなかった気持ち。
君と話せなくなってから今まで私が過ごしてきた日々のこと。
いつかまた会えた時に、伝えられるように忘れないように。
もしかしたら君がこれを目に止めてくれるかもしれないという淡い期待。
書き始めた時のそんな気持ちも忘れていた。
私は結局、筆と一緒に走り続けているつもりで逃げているだけだった。
いつか、いつか書いてみせるから。
それは君の好きそうな設定を盛り込んだ浅いファンタジーかもしれないし、私たちが進みたかった理想のラブストーリーかもしれない。
必ずハッピーエンドで完結させる。
君が読んで笑顔になってくれるような小説にしたい。
花瓶にいても、花束の中にいてもいつも引き立て役で、主役にはなろうとしない。
けれど、どんな花よりも可憐で淑やかな白い花を君みたいだと思った。
まだ何を書くかも決めていない真っ新な原稿用紙に、「霞草」と書き留めた。
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