第6話 月下美人と劣等感

誰よりも努力を続けてきたつもりだった。

誰よりも自分が劣っている気がして、最初はそんな惨めな気持ちから抜け出したいだけだった。


誰からも美人だと言われるようになって、少しだけ自信が着いた時、それと引き換えに私は自分より劣る人を見下すようになった。

そんな自分を更に嫌いになった。

その癖、自分より綺麗な人は妬ましくて仕方が無かった。

私は誰よりも努力したのに、それでも叶わないという事実が痛かった。

周りの人間全員が敵であるように感じていた。

だから私は誰からも愛されなかった。


あの子のことも嫌いだった。

化粧のやり方も知らないような田舎娘で、だけど化粧なんか必要の無いくらいのまさに天然の美少女だった。

太陽みたいに明るく笑うので、誰からも愛された。

そんな彼女は、花が好きだった。


ある日彼女が「見せたいものがある」と言って私を家に招いた。

彼女の家の庭にはそれは見事な月下美人が咲いていた。

「月光に映える庭を作ってみたんだ。あなたをイメージしたんだよ。」


その夜、銀色に光る満月の下で私達は友達になった。

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