第3話 プルメリアの降る街
バイクの騒音。踏み散らかされたゴミ。
下品な英語の落書き。十メールおきにはあるんじゃないかというくらい頻繁に見かけるタトゥー屋さん。
初めて浴びる異国の風というものはなんだか焦げ臭かった。
安上がりな旅にしようと宿代を少しケチったのが間違いだった。宿泊先に女性が一人歩きするには危ないと言われるような繁華街の中心部のヴィラを選んでしまったのをものすごく後悔している。怖さ加減が日本で同じ事を言う場所の比じゃない。
日本語は当然のように通じないどころか、英語も伝わる人間は一握り。そのくせ閉まっているシャッターにはいっちょまえにF**k offとか落書きされている。
南の島なのに、夕暮れにロマンチックさが無い。
ここへ来て、自分が今まで住んでいた日常と全く違う生活をして、新しい発見をしたらきっと世界の見え方が変わるかもしれない。
何の夢も希望も目標もない自分を変えることができるかもしれない。
そう思って私は、一人で旅をすることにしてみたのだ。
だがしかし既に帰りたい。
日本に、帰りたい。
憂鬱な気持ちで空を見上げた。
空だけは日本と変わらない。
けれど、この街はそう悪いところばかりではなかった。
例えば、「日本語勉強してマス」と話しかけてくれた外人さん(いや、ここでは私が外人か)は日本語よりも笑顔が上手だったり。
お部屋についているプールにはプルメリアの花が浮かんでいてすごく可愛かったり。
このプルメリア、わざと浮かべてるのかと思ったけどよくみたら傍にある木から落ちてきている。だからたまに裏返ってるやつもある。
この景色、君にも見せてあげたい。
けどケータイとか全部置いてきちゃったから写真撮れる物を持ってない。無念。
だからいつか、君もこの街に連れてきてあげる。
私と同じで少し残念なものが好きな君はきっと気に入ってくれると思う。
頑張って仕事して、お金貯めるね。
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