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眩しい、朝か。

光を遮るカーテンも無い部屋で朝の直射日光で目が覚めた。

季節は暖かくなってきたとは言え春半ば、夜中に寒くて目が覚めると思ってたんだが、まあ、理由は何となくわかる。

姉ちゃんが俺を抱きしめて寝ていた。

大方1人で寝るのが寂しかったとか、寒かったとかだろう。


「姉ちゃん朝だよ、起きろ、トイレに行けない」


元々一旦眠りに入ると自分で起きるまで何があっても起きない姉ちゃんだ、もちろん反応はない。


体を動かして抜けるしかないか…


「ぬ、抜けない」


どれだけ力を入れてもガッチリとホールドされた腕を緩められそうにない、おかしいな、姉ちゃんは非力な筈だったんだが…

身じろぎしながら、ふと姉ちゃんの顔を見ると、涙の跡が残っている。

そうだ……姉ちゃんも不安だよな。


でも今は一大事、気にしている場合ではない。

「おい、起きろマジで、ヤバイって、も、漏れる」


動かせる範囲で必死にもがく、すると今度は足も使ってホールドしてきやがった。

そこに来て自室の扉が突然、バン!と音を立てて開けられた。

「悠くん朝だよー!お母さんがあさごは……」

「んぅ、駄目だよ悠太、私達姉弟だよ」


必死で身じろぐ俺、心無しか少し頬を赤らめてアホな寝言を言う姉、無言で近寄り俺を見下ろす涼夏が片足を上げる。なるほどここが地獄か


「実の姉を襲うなんて!不潔!」

ドン!

「ぶふぇ!待て!どう見ても」「変態!」

ドン!

「ゴハ!やめ!」「悠太!」

ドン!

顔面フルコンボだドン

ただでさえこの町に帰ってきて傷心気味な俺の心は久しぶりに再会した幼馴染によって打ち砕かれた。

俺は顔とパンツを濡らした、性的な意味じゃないぞ?




「悠くんごめんって!」「悠太、私もごめんね」


至極申し訳なさそうに姉と幼馴染がセットで正座をして謝ってくるが、流石に直ぐには許せそうにない。

2人を無視して、俺は幼馴染の母、蓮さんが用意してくれた朝食を食べる。


四年ぶりに食べているが俺にとっての母の味、蓮さんの料理は当時と変わらず絶品だ。



「悠太くん、おばさんの料理に免じて2人を許してあげてくれないかな?ほら2人とも悪気は無いんだから…」

確かに、姉ちゃんは俺を庇ってくれて、一緒に家を出てくれた。

涼夏も、ただ幼馴染だった俺を四年間も心配してくれていたみたいだ。


こんな落ちぶれた俺を…


「今回だけだからな、次はない」

と告げるとぱぁっと花を咲かせる様に笑顔を浮かべ俺を挟んで両隣に座る2人に俺も蓮さんも思わず呆れ顔を浮かべてしまう。

「2人とも、気をつけるのよ、特に涼夏、アンタも暴力は駄目よ」

「う、うん、悠くん本当にごめんね」


「もう気にしてねえよ」


「悠太、ちゃんと許せて偉い」


菜月姉ちゃん秘技ナデナデ、相手は落ち着く。

「16になる弟に言う事じゃねえよ、それよりも、これからどうするんだ?こっちに戻ってきたはいいけど、金なんて持ってないし、俺も働こうか?中卒でも現場仕事なら雇って貰えるんじゃないか?」

姉の手を優しく振り払い、気になっていた事を質問してみた。

前向きに生きようとしなくても生きるなら金がいる、

元の家を追い出されて住むところはあれど金はない。

姉ちゃんは1人で稼いで俺を養おうと本気で思ってそうだが、こんな俺の為なんかに、20歳の若さで、異性と付き合う事も遊ぶ事もなく仕事ばかりさせるのは申し訳ない。


どうせもう学校に行く気もない、なら少しでも姉ちゃんを楽させるために俺も働こう。

「悠太は働かなくていいよ、お金の事なら気にしなくていいから今からでもちゃんと高校に通おう?」

「いや、俺も働くよ、俺のせいで実家を追い出されたのに、姉ちゃんだけ働かせるわけにはいかねえだろ、それに行く気はねえけど学校に行くなら学費だって必要だろ?」


「学費の事なら気にしなくてもいいわよ」


「蓮さん……」


「悠太くんが高校を出るまでの学費はうちで出すわ」


「高校に行っても意味ないですよ、やりたい事も目標も何もないんです」


「今はそうでも、騙されたと思って通いなさい。これは強制よ」


昔本気で怒られた時以来だ。蓮さんにこんな真剣な目で見つめられるなんて、だからこそ分からない。

深い縁はあるけど、高い授業料を出してもらってまで、学校に通わせてもらうだけの価値が俺にあるのか?


「どうして…どうして姉ちゃんも蓮さんもそこまで俺なんかの為に?」


「その答えは今の君には、私達から言われても理解はできても分からないと思う、だから、その答えを探しに学校に通ってみよう?」


「そうだね、だから今は気にせず私達に甘えてみよ?大丈夫、お姉ちゃんは蓮さんの会社にお世話になる事にしたから、えへへ、正社員さんなんだよ?」


「それでも、答えが見つからなかったら?」


「その時は、幼馴染の私が一緒に考えてあげるよ!」


目頭が熱くなるのを感じる。

「泣きたい時は泣いてもいいのよ、泣いた数だけ、立ち上がれるものよ、きっと」

それでも昨日から泣いてばかりなので我慢をする。

「さて、そろそろ仕事行かなきゃね涼夏ものんびりしてていいの?」


「あー!もうこんな時間だ!遅刻しちゃう!ごめんね、悠くん今日は午前中で終わるから寄り道しないで帰ってくるね!いってきます!」


ドタバタと涼夏が家を出ていった。


「ふふ、あの子は本当に慌てん坊ね、悠太くん、菜月ちゃんも一緒に会社に行くけど、1人でお留守番できる?」


「俺、そんなに子供じゃないですって」


「そう?私からしたら3人とも私の子供みたいなものよ?じゃあ任せたわね、菜月ちゃん行くわよ」

と言って蓮さんが立ち上がる、見た目だけなら俺たち3人のお姉さんでも、通用するんだけどな。

「はい!じゃあ悠ちゃん、お姉ちゃん今日は顔合わせだけで午前中でかえってくるから、午後から一緒家具を買いに行こうねぇ」


「おう」


「それじゃ、ん!」


2人を見送ろうとした俺の前に立ち、腕を広げる姉。

「おう、行ってらっしゃい」


「ん!」


「…?」


「ぎゅーだよ!英語ならハグ!昔はよくしてたじゃん!」


昔って……俺が小学生の頃(強制)じゃねえか…

「蓮さんの前でそんな事できるかっ」


「悠太くん、私も、んー!」


「れ、蓮さんまで、もししなかったら?」


「唐辛子が冷蔵庫に沢山あったかしら?」


この後めちゃくちゃハグした。

仕方ないじゃん、俺辛いもの苦手だもの。

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