CHAPTER 1

 その場所は、端的に表現するとフワフワモコモコしていた。

 毛布やクッション、布団といった寝室にあると嬉しい柔らかい質感に満たされ、優しい抱擁ほうようが約束された雰囲気。

 そこには少女が一人だけ居座る。その場所と同じように、モフモフした小動物のような印象を抱かせる少女だ。

 輝く星のような銀髪、その長い毛先は、夜空のような黒色も滲んでいる。双眸の色は紅紫色。華奢な身体にまとうのは、何にも汚されていない事を表すような純白のセーラー服だ。若干短めのスカートからは、陶器とうきのような肌を晒す素足が伸びている。

 少女はジッと、その場所で唯一硬い質感を持ったモニターを見つめていた。

 そこには、廃墟を抜け出そうと歩くユノアの姿が映し出されている。

 恐竜ロボとの戦いを経て、少しだけドレスを汚しつつも、気にせず高揚感を持った顔で進んでいる。そうしたユノアの姿が鮮明に流れているのだ。

 少女はどこか無感動な表情であったが、視線は興味深そうにモニターへ注がれていた。

 まるで初めて見るアニメかドラマの第一話を見ているような様子だ。

 これは何なんだろう?これからどうなるのだろう?

 そんな気持ちを微かに胸に抱き、出入り口の見えない場所で、少女はモニターを見続ける。

 映像の中のユノアが廃墟を抜け、深い森の中に入った。

 新たな環境のエリアに目を輝かせ、躊躇いなく奥へ奥へと猛進する。

 地図を確認し、表示されるマップが広がっているのを確かめると、状況が進展している事に喜び、森の中を右往左往して更にマップの表示域を広げていく。

 しばらくして、映像が暗くなり始めた。モニターの問題でなく、映像の中で太陽が傾いてきたのが原因だ。

 ユノアの周囲が木々の陰に覆われて暗くなる。

 そうして増えていく闇の中から、ユノアを害する牙が向けられた。

 四方からユノアに迫る強襲に、傍観する少女は息を呑んだ。

 夕暮れ時の森に、血飛沫ちしぶきが撒き散らされる。

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