第八話【パーティの要件】
勢い余ってパメラは叫ぶ。
テールのその様子に目を丸くした。
「うふふ。そうなんですの。パメラはなんと料理の
「アナスタシア様! それは今関係ありません‼」
嬉しそうに微笑むアナスタシアと、そのからかいに頬を染めるパメラを横目に、テールはパーティの構成を考えていた。
(前線は剣を扱えるパメラ。第三階層まで到達していたなら、第一階層を苦にすることはまずないだろう。アナスタシアが光魔法の使い手だというのは思いもよらぬ幸運だ。アナスタシアさえ無事なら大抵ことは対処できる)
テールは二人が自分のパーティにと聞かされた時は驚いたが、今はもう一人のメンバーに恵まれれば、【黄金の鷲】と遜色のないパーティを組めそうだと感じていた。
俄然やる気が出たテールは、一度深く息を吐き、はっきりとした声で号令を出した。
「よし。問題ない。ダンジョンに、潜るぞ」
「はい!」
「ダンジョンの中ではお前の方が熟練者だ。お前の指示に従おう」
二人の返事を聞いたテールは、ダンジョンの入り口を囲っていた土壁の一部を崩し、通れる道を作った。
テールに続いて二人が順にその道を通り抜けると、テールは壁を再生させる。
「これで間違って猫人たちが入り込むこともないだろう。ところで、猫人たちにはいつこのダンジョンのことを教えるんだ?」
「それは、これから向かうダンジョンコアに、狙い通りのことができるか次第ですわ。そのためにもテール様が必要ですの」
「なんだかわからんが、ひとまず、目的はダンジョンコアでいいんだな?」
「ええ」
それだけ確認すると、テールはダンジョンの入り口に置かれた四つの小さな球を拾い上げ、その内二つをアナスタシアに一つをパメラに渡す。
残りの一つは落とさぬようしっかりと自分の懐の奥へと仕舞い込んだ。
「わかってると思うが、絶対にこの球をダンジョンの中で落とすなよ? 当然入る時もだ」
「ええ。それにしても本当に不思議ですわね。ダンジョンの存在はもちろんですけれど、入り口に置かれるダンジョンオーブの存在。一体どういう仕組みなのでしょう」
「ダンジョンが成長するっていう誰も知らなかったことを知っている姫様がわからないんじゃあ、誰もわかるやつはいないだろうよ。わかってるのは、この球を持っている者同士が、ダンジョン内でパーティとして認められるってことだけだ」
「球は一度拾っても、また現れるのだろう? 授能といいダンジョン内のことといい、ダンジョンは不思議なことだらけだな」
テールが二人に渡したのはダンジョンオーブと呼ばれる球で、どのダンジョンの入り口にも必ず四つ置かれているものだ。
このダンジョンオーブを持ち合う者は、ダンジョン内でパーティとして認識される。
パーティである恩恵は主に二つ。
一つ目はダンジョンに降り立ってすぐに得られる。
ダンジョンの入り口に足を踏み入れると、不思議な感覚と共に第一階層の不特定の場所へと飛ばされる。
その飛ばされる先はたとえ同時に入ったとしても一致せず、唯一ダンジョンオーブを共有するものだけが同じ場所へと導かれる。
熟練の探索者ならまだしも、初めてダンジョンに潜る初心者が一人で自分の現在地もわからない場所に降り立つのは自殺行為に等しい。
管理されたダンジョンの入口では、そのことを知らず誤って入らないように、門番が設置されている。
二つ目は、モンスターを倒した際に得られる
同じパーティであれば、誰がモンスターを討伐したとしても、均等にそれぞれの
「テール様。私が二つでよろしいんですの?」
「ああ。この中で第一階層で能力を伸ばす余地があるのは姫様だけだ。二つ持ってもらった方が効率的だろう?」
「それもそうですわね。それではお言葉に甘えて遠慮なく」
テールはアナスタシアにダンジョンオーブを二つ持たせたのには訳がある。
ダンジョンの入り口に出現するダンジョンオーブの数は必ず四つ。
つまり、パーティの最大人数は四人というわけだが、テールたちは今三人しかいない。
一つ余ったダンジョンオーブをアナスタシアに持たせることによって、本来四分割されるモンスター討伐時の能力成長を、アナスタシアだけ二倍にできる。
第七階層の成長限界に達しているテールはもちろん、第三階層まで到達したことがあるパメラも、第一階層に出没するモンスターでは成長は望めない。
それならば、唯一成長できるアナスタシアに持たせるのが合理的というわけだ。
テールは二人が問題なくダンジョンオーブをしまい込んだことを確認し、ダンジョンへと足を踏み入れる。
これまでに数え切れないほど味わった浮遊感に襲われ、テールは目を閉じた。
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