第七話【それぞれの才能】

「さて。聞いてた以上に家を作ったものの、どういう風に分かれるのかわからねぇ。見ての通り、ある程度のは同じものもあるが、中が違ったり、でかさがちがったりするのもある。あんたらでうまく決められるか? もし足りないなら増やすこともできるが」

「少々お時間をいただけますかな? 皆の者。聞いたな? 一家で一軒の家を頂戴することとする。テール様を長くお待たせするわけにもいかん。どこに住むかはワシが決める。文句は許さん」


 ブランはそういうとテキパキと家長と思わしき者たちに、住む家を指定していく。

 家を与えられた一家は、頷くとその中へと入っていき……思い思いに叫んだ。


「なんてことだ! こんな立派な家具まで備え付けられているだなんて!!」

「なんて頑丈そうな造りかしら! これならあの洪水が来ても流されそうにないわ!!」


 先に入った者たちの喜びと驚きの声を耳にして、残りの者たちも早く自分も中が見たいとそわそわし始める。

 その様子を見たアナスタシアは笑顔で笑い、テールは恥ずかしそうに右の頬をかいた。


「改めてお礼を申し上げますぞ。外から見ても立派でしたが、中は我々の想像すら超える出来栄えでした。本当に縁もゆかりも無い私たちが、無償であのような家を授かってよいものやら……」

「無償ではない。これから領民として、しっかりここを繁栄させていってくれないとな」

「それにしても。失礼かもしれませぬが、なぜこのような何もない場所に街などを……」


 ブランの当然ともいえる疑問に、テールは答えを詰まらせてしまった。

 この場所にダンジョンの入口があることも、ダンジョンを成長させるために人を集める必要があることも言っていいとはアナスタシアから聞いていない。


 救いを求める目をアナスタシアに向けると、アナスタシアは首を横に振る。

 つまり彼らにダンジョンのことはまだ知らせてはいけないということだ。


 といっても真実以外のことをもっともらしく説明できるほどテールは要領が良いわけではない。

 困った顔で無言を続けていると、ブランは一度頭を下げ身を引いた。


「一族の窮地を救っていただきながら、差し出がましい質問を投げてしまいました。わたくしめたちには想像も及ばぬ重要なことをお考えなのでしょう」

「ごめんなさい。ブラン様。今はまだお伝えできないのですけれど。もう少ししましたら必ず。それまで待っていてくださる?」


 アナスタシアの言葉にブランは一度深く頷き、今後のことを村人たちと話してくるとその場を後にした。

 残ったテール、そして側に控えているパメラに向かい、アナスタシアは話し始める。


「さて……少し予定とは異なりましたが、猫人様たちのことはお任せしましょう。遅くなってしまいましたが、テール様。これからダンジョンに一度潜ろうと思いますの。よろしくて?」

「これからダンジョンに? 俺は構わないが、何が目的だ? ダンジョンを成長させるにはもっと人を集めないといけないんだろう?」

「ええ。でもダンジョンコアの状態やダンジョンの様子を確認したのです。以前ここに訪れた時と何か変わっているのか、それともいないのか」

「なるほど。ところで、今更なんだが、ダンジョンに潜るパーティを用意すると言っていたが、そいつはどこにいるんだ? いつ頃こっちにたどり着くか目処はついているのか?」


 テールの質問にアナスタシアはコトンと首を横に傾げた。

 現実でそんな仕草をする人物を目の当たりにするのは初めてのテールだったが、妙に可愛いと感じてしまう。


「何処にいるも何も、残りの二人はここにいる私とパメラですわ。残念ながら、残り一人は、ここの領民から適した才能ギフトを授かった者を選抜することになりますけれども」

「なんだって⁉ 冗談はよせ。俺が目指すのはダンテのダンジョン以上の深部だ。この前授能したばかりの姫様が辿り着けるわけないだろう?」

「あら。お言葉ですけど、テール様だって授能したばかりの頃がおありでしたでしょう? それに、お忘れかもしれませんけど、ダンジョンはまだ育ちきっていませんわ。領地開拓に合わせて深度を増やすダンジョン。私もそれに合わせて成長すればよろしいでしょう? こう見えて私、育ち盛りですの」


 アナスタシアの言葉に、テールはふと抱きしめられた時のことを思い出す。

 これ以上どこを成長させるというのか……そんな邪念がテールの頭をよぎった。


 馬鹿な考えを頭の隅に追いやり、テールは真面目な顔つきをする。

 ダンジョンに潜る前の探索者の顔だ。


「そうだったな。わかった。話によると今はまだ第一階層だけだったな。俺がいれば特に危険はないと思うが、万が一のこともある。事前にそれぞれの才能ギフトを確認しておきたい。最高到達深度もだ」


 才能ギフトで何を得意とするか決まり、その能力の強さは、到達したことのある深度によっておおよそ推察できる。

 ダンテのダンジョンによらず、どのダンジョンでも階層の深度によって現れるモンスターの強さには一定の共通点があり、深いほどその強さも増す。


 また、才能ギフトはモンスターを討伐することによりその能力を上げるが、各階層に出没するモンスター毎に成長限界が存在する。

 逆に成長限界に近づくほど自身の才能ギフトを鍛えていないと、次の階層に出没するモンスターの対応が難しいのは探索者の常識だった。


「まぁ。テール様の凛々しいお顔も素敵ですわ。私の才能ギフトはお伝えした通り、直感。それと、光魔法ですの。到達深度はまだ一階層ですわ」

「私の才能ギフトは剣。もう一つあるがそっちは戦闘には役にたたん。到達深度は第三階層までだ」

「おいおい。二人とも揃って二重才能ダブルギフトかよ……それにしてもパメラの戦闘の役にたたん才能ギフトってなんだ? いざって時に役に立つかもしれん。隠さないで教えろ」


 テールはパメラに真面目な顔で迫る。

 パメラは恥ずかしそうに下を向きぼそぼそと呟いているが、テールの耳にはうまく届かなかった。


「おい。聞こえないぞ。どんな才能ギフトなんだ? もう少しはっきり言え」

「確かに戦闘には役には立ちませんけれども、とっても素敵な才能ギフトだと私は思いますのよ」


 アナスタシアは面白そうに笑みを作りながらそう言う。

 パメラは先ほどよりは少し大きな声だが、やはり呟くように声を発した。


「りょ……り……だ……」

「うん? りょ? なんだ?」

「料理だ!」

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