第五話【拠点づくり】

「土魔法は土さえあれば術者の思い通りにできるからな。上に木が生えてようが、草が生い茂っていようが、問題ない」

「テール様は簡単そうに仰っていますが、移動中ずっと、しかも竜馬の速度に合わせて目の前に道を作り続けるなど、他の誰にもできることではないと思いますよ?」

「確かに、そんな奴が大勢いたら、今頃ガンビール王国の国土は今の二倍、いや三倍になっていてもおかしくない」


 テールは二人にそう言われて、自分以外の土魔法使い、つまり授能で土魔法の才能ギフトを授かった者たちのことを思い浮かべる。

 少なくともテールが探索者を目指していた時にはすでに、土魔法を授かった者は探索者になることを諦めるものがほとんどだった。


 第八階層の壊れぬ壁。

 この存在が、探索者を目指す土魔法使いの文字通り大きな壁となって立ち塞がった。


 ダンテのダンジョンに集まる探索者の多くは、より下層を目指し、あわよくば自らが第八階層の踏破者となることを目標とする。

 テールが【黄金の鷲】を追放された理由の通り、わざわざ途中から使えなくなるメンバーを入れるよりは、初めから別の才能ギフトを持ったメンバーを選ぶ。


 その点、テールはパーティのリーダーであるランドと共に探索者になることを誓い合った仲であり、土魔法の才能ギフトを授かったとわかっても、その誓いは崩れることはなかった。

 それも今となっては、第八階層に手が届くとわかるまでは、という期限付きだと思い知らされたが。


 それでも第七階層まで辿り着くことは並大抵のことではない。

 テールも人一倍の努力に明け暮れ、また本人も気付いていないが、【黄金の鷲】がエースと呼ばれるほどの快進撃を成し遂げたのはテールの実力によるところが大きい。


「それはそれとして、ひとまずは今日身を休める場所を確保しないと始まらないぞ? この辺りは雨も多そうだから、屋根も必要そうだな」

「まさにその事なんだがな。テール。アナスタシア様が、きっとお前がどうにかしてくれると、言い張って聞かんのだ」

「なんだって?」

「うふふふ。私の直感がそう告げているのです。テール様にお任せすれば万事大丈夫だと」

「無理なら無理だと早めに言ってくれ。一応アナスタシア様の雨風を凌ぐための道具は持ってきたが、その設置にもそれなりの時間がかかる」


 テールは険しい顔を向けるパメラと、正反対に期待の気持ちで目を輝かせているアナスタシアを交互に見る。

 そして大きなため息を吐いた。


「あのなぁ……姫様の直感がどれだけ凄いか知らないけれど、無謀がすぎるぜ? こんな荒れた土地を人が住めるようにするためには人足が山ほど必要だ。そんなことは学のない俺にだってわかる」

「ふん。道の一件で多少見直してやったが、やはりしょせんはその程度か。まぁ、虚勢を張り時間を無駄に浪費しなかっただけでも良しとする」

「ちょっと待ってくれ。誰もできないなんて言ってないだろ? ちょっと危ないから俺の後ろに下がっててくれ」

「なに?」


 テールは言うと同時に手を前に突き出し、土魔法を使うための詠唱を始めた。

 どの魔法も威力や精度を犠牲にすれば詠唱無しでも発動できるが、今回の作業には広範囲の土や石を操るという威力と、更には精密さも要求される。


 まず始めに起こったのは陥没だった。

 突然家一件分くらいの範囲が正方形に崩れ落ちた。


 陥没し表面を均された周囲にある土が中を舞い、レンガのように整形されながら、整地された場所に整然と積み重なっていく。

 よく見ると、壁だけではなく、椅子や机、寝床まで設置されていた。


「なんだこれは……?」

「うふふふ。ね? パメラ。私の言った通りになったでしょう? パメラも見た目は良いのだから、もう少し柔軟な思考を持った方が殿方にも受けが良いと思うわよ?」

「アナスタシア様! 一言余計です!」


 目の前の出来事に目を見張るパメラと、それを茶化すアナスタシアを尻目に、着々と草木が生い茂っていたはずの土地に、見事な土壁の一軒家が現れた。

 気になるところといえば、入口や窓が筒抜けのままだというところか。


「さて。ひとまずこれで雨はしのげるが。いかんせん、土で扉や窓まで作ると開け閉めが面倒だからな」

「さぁ、パメラ。テール様が作ってくださった素敵な拠点に荷物を運び入れましょう」


 できたばかりの家を見つめたまま立ち尽くしていたパメラは、アナスタシアの言葉に跳ねられたように動き出す。

 アナスタシアに命じられるままに馬車に積んであった道具を次々へと運んでいった。


 パメラはこれらの道具を揃える際、どうせ途中で馬車を捨てることになるのなら、無駄だと考えていた。

 考えてはいたが、主君であるアナスタシアの言葉に逆らうわけにもいかず、積み込んだのだ。


 パメラは無駄にすることなくここまで運ぶことを可能にしたテールと、それを予見していたアナスタシアのどちらが凄いのか自問自答する。

 贔屓目の結果アナスタシアに軍配が上がった。

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